無題

鍼師が病に倒れる。
自己の身も、辛かろうが、
もう一つ堪え難いくるしみがある。
それは、同じように苦しんだ患者を救えた自分の歴史と、
今度は己を救えない矛盾と、
或いは、救えなかったそものに対する、自分の行動が最善のものであったか、
という無限の問いかけ、
自問自答。
名医であるほど、
想いは深いであろう。
簡単には死ねない。

鍼師には答えなどない。
自分の開発した術にたいする
誉れと責任を各人が背負う必要があった。
幾人もの英雄が
その目に見えぬ修羅場を通ったのであろう。
孤独で尊い仕事だと思う。

西洋医学も点数制度になるまでは、
各々が色んなものを背負って来たのであろう。

西洋も東洋も、
自分の中の医術のあり方は、
それぞれが考えなければならない。
職業人としての死に方に他ならないのだから。

また、
時代に全く合わないかもしれないが、
男の子が、
一つの職を選んだ時、
どんな職業であろうと、
死に場所を明確に決めないといけないと思う。
10代、20代において。
時代の感覚に対しては、僕の知ったことではないが、
鍼師においては、
そうあるべきだと考えている。
(男の子と書いたが、
女性が鍼を持つということの実際が僕にはわからないから
そう書いた。
実際、女性の鍼師を育てることにこれまで失敗し続けているものであるから。)

話は曲がってしまったが、
鍼師は簡単には死ねないという話。

誉れある生き地獄だと個人的には考えている。

手に職だと言って、鍼師になる人も昨今では多いらしいが、
安易な方向に行かず、
苦しみ抜いて、色んなものを背負って遂げられる、
誇り高き針医者が生まれることを祈りたい。

最後に。
戦い尽くして
眠りについた
彼らにどうか唯一の安らぎを。

 

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