こんにちは、為沢です。
大阪の新名所?なんでしょうか。グランフロント大阪です。
ここからは、張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。
今回の傷寒論は弁太陽病脈証并治(下)百三十五章・百三十六章。
百三十五章では傷寒が内伝したことにより、大陥胸湯証となった場合の証治について。
百三十六章では大柴胡湯証と大陥胸湯証の証治について詳しく述べております。
弁太陽病脈証并治(下)百三十五章
傷寒六七日、結胸熱實、
脉沈而緊、心下痛、按之石鞭者、大陷胸湯主之。
和訓:
傷寒六七日、結胸熱実、
脉沈にして際に、心下痛み、之を按じて石鞭なるものは、大陥胸湯之を主る。
・傷寒六七日、結胸熱實
傷寒が緩解せず6〜7日経過すると、
誤下しなくても表の熱邪が胸中に内陥して
邪熱と水飲が結合し、結胸証を形成することがある。
・脉沈而緊、心下痛、按之石鞭者、大陷胸湯主之
心窩痛、按之石鞭の症状が現れ、脉もそれに応じて沈緊を示している。
大陥胸湯だけがこの実熱を攻瀉し、遂水することができる。
大陷胸湯
こちらを参照→【古医書】傷寒論: 弁太陽病脈証并治(下)百三十二章・百三十三章・百三十四章
提要:
傷寒が内伝したことにより、大陥胸湯証となった場合の証治について。
訳:
傷寒に罹って六七日経ち、
そして熱実の結胸証が出現し、脉象は沈で緊、心下の部位が痛み、
そこを手で押さえると石のように硬いなら、大陥胸湯で治療すればよい。
百三十六章
傷寒十餘日、熱結在裏
復往來寒熱者、與大柴胡湯。
但結胸、無大熱者、此爲水結在胸脇也
但頭微汗出者、大陷胸湯主之。
大柴胡湯方。
柴胡半斤 枳實四枚、炙 生薑五兩 黄芩三兩 芍藥三兩 半夏半升 大棗十二枚
右七味、以水一斗二升、煮取六升、去滓再煎、
溫服一升、日三服。一方加大黄二兩。若不加、恐不名大柴胡湯。
和訓:
傷寒十余日、熱結して裏に在り、
復た往来寒熱するものは、大柴胡湯を与う。
此れ水結して胸脇に在りと為すなり。
但だ頭に微汗出ずるものは、大陥胸湯之を主る。
大柴胡湯方
柴胡半斤 枳実四枚、炙る 生薑五両、切る黄芩三両 芍薬三両 半夏半升、洗う大棗十二枚、擘く
右七味、水一斗二升を以て、煮て六升を取り、滓を去りて再び煎じ、一升を温服し、日に三服す。
一方に大黄二両を加う。若し加えずんば、恐らくは大柴胡湯と名づけざらん。
・傷寒十餘日、熱結在裏、復往來寒熱者、與大柴胡湯
傷寒で10日余り経っても、まだ治らなければ
表邪は熱に転化して、内伝、熱結し裏証の陽明証となり
さらに寒熱往来が現れると、少陽証でもある。
少陽は枢を主るため、
これは少陽枢の働きにより邪が外へ追い出そうとしているのであるから
大柴胡湯で枢解し、少陽と裏熱をどちらも清していくとよい。
・但結胸、無大熱者、此爲水結在胸脇也、
但頭微汗出者、大陷胸湯主之
結胸で熱証が激しくない場合、水熱が結した部位が高く、
熱が水中に内陥したからで、
頭部に微かに汗をかく程度であり大陥胸湯でこれを治療する。
大柴胡湯
・柴胡
基原:
セリ科のミシマサイコ、またはその種の根。
日本や韓国で栽培利用されているのは本種である。
柴胡は苦微辛・微寒で芳香を有し、
軽清上昇して宣透疏達し、
少陽半表半裏の邪を疏散して透表泄熱し、
清陽の気を昇挙し、
かつ肝気を疏泄して欝結を解除する。
それゆえ、邪在少陽の往来寒熱に対する主薬であり、
肝気欝結の胸脇脹痛・婦女月経不調や
清陽下陥の久瀉脱肛などにも常用する。
・枳實
基原:
ミカン科のダイダイ、イチャンレモン、カラタチなどの幼果。
枳実は苦寒で下降し、
気鋭力猛で破気消積・化痰除痞に働き、脾胃の気分薬である。
積滞内停・気機受阻による痞満脹痛・便秘・瀉痢後重には、
気血痰食を問わず用いる。
薬力が猛烈であることから、「衝墻倒壁の功あり」
「消痰癖、祛停水、破結胸、通便閉、
これにあらざれば能わざるなり」といわれている。
・生薑
基原:
ショウガ科のショウガの新鮮な根茎。
日本では、乾燥していない生のものを鮮姜、
乾燥したものを生姜を
乾生姜ということもあるので注意が必要である。
生薑は辛・微温で肺に入り発散風寒・祛痰止咳に、
脾胃に入り温中祛湿・化飲寛中に働くので
風温感冒の頭痛鼻塞・痰多咳嗽および水湿痞満に用いる。
また、逆気を散じ嘔吐を止めるため、
「姜は嘔家の聖薬たり」といわれ
風寒感冒・水湿停中を問わず
胃寒気逆による悪心嘔吐に非常に有効である。
・黄芩
基原:
シソ科のコガネバナの周皮を除いた根、
内部が充実し、
細かい円錐形をしたものを
条芩、枝芩、尖芩などと称し、
老根で内部が黒く空洞になったものを枯芩、
さらに片状に割れたものを片芩と称する。
黄芩は苦寒で、苦で燥湿し寒で清熱し、
肺・大腸・小腸・脾・胆経の湿熱を
清利し、
とくに肺・大腸の火の清泄に長じ肌表を行り、安胎にも働く。
それゆえ、熱病の煩熱不退・肺熱咳嗽・湿熱の痞満・瀉痢腹痛・
黄疸・懐胎蘊熱の胎動不安などに常用する。
また瀉火解毒の効能をもつので、
熱積による吐衄下血あるいは
癰疽疔瘡・目赤腫痛にも有効である。
とくに上中二焦の湿熱火邪に適している。
・芍藥
基原:
ボタン科のシャクヤクのコルク皮を除去し
そのままあるいは湯通しして乾燥した根。
芍薬には<神農本草経>では赤白の区別がされておらず
宋の<図経本草>ではじめて
金芍薬(白芍)と木芍薬(赤芍)が分けられた。
白芍は補益に働き赤芍は通瀉に働く。
白芍は苦酸・微寒で、酸で収斂し苦涼で泄熱し、
補血斂陰・柔肝止痛・平肝の効能を持ち諸痛に対する良薬である。
ここでは白芍を用いる。
白芍は血虚の面色無華・頭暈目眩・
月経不調・痛経などには補血調経し、
肝鬱不舒による肝失柔和の胸脇疼痛・四肢拘孿および
肝脾不和による
腹中孿急作痛・瀉痢腹痛には柔肝止痛し、
肝陰不足・肝陽偏亢による頭暈目眩・肢体麻木には斂陰平肝し、
営陰不固の虚汗不止には斂陰止汗する。
利小便・通血痺にも働く。
・半夏
基原:
サトイモ科のカラスビシャクの塊茎の外皮を除去して乾燥したもの。
半夏は辛散温燥し、水湿を行らせ逆気を下し、
水湿を除けば脾が健運して痰涎は消滅し、
逆気が下降すると
胃気が和して痞満嘔吐は止むので
燥湿化痰・和胃消痞・降逆止嘔の良薬である。
それゆえ、脾虚生痰の多痰、痰濁上擾の心悸・失眠・眩暈、
痰湿犯胃の悪心嘔吐・飲食呆滞・心下痞結にもっとも適する。
また、適当な配合を行えば、
痰湿犯胃の咳喘・胃虚や胃熱の嘔吐・
痰湿入絡の痰核などにも使用できる。
このほか、行湿通腸するので老人虚秘にも効果がある。
生半夏を外用すると癰疽腫毒を消す。
・大棗
基原:
クロウメモドキ科のナツメ。またはその品種の果実。
甘温で柔であり、
補脾和胃と養営安神に働くので、
脾胃虚弱の食少便溏や
営血不足の臓燥など心神不寧に使用する。
また薬性緩和にも働き、
峻烈薬と同用して薬力を緩和にし、脾胃損傷を防止する。
ここでは、脾胃を補うとともに
芍薬と協同して筋肉の緊張を緩和していく。
また、生薑との配合が多く、
生薑は大棗によって刺激性が緩和され、
大棗は生薑によって気壅致脹の弊害がなくなり、
食欲を増加し消化を助け、
大棗が営血を益して発汗による
傷労を防止し、
営衛を調和することができる。
提要:
大柴胡湯証と大陥胸湯証の証治について。
訳:
傷寒の病に罹って十日余りが経ち、邪熱が裏に結し、
さらに往来寒熱が出現するなら、大柴胡湯で治療すればよい。
もし結胸証のみで、明かな発熱がない場合は、水邪が胸脇の部位に凝結しており、
それで頭部にだけ微かに汗が出るのであり、大陥胸湯で治療する。
大柴胡湯方
柴胡半斤 枳実四個、炙る 生薑五両、切る
黄芩三両 芍薬三両 半夏半升、洗う 大棗十二個、裂く
右の七味を、一斗二升の水で、六升になるまで煮て、滓を除いてからさらに煎じ、一升を温服して、一日に三回服用する。
大黄二両を加えるとする処方があるが、もし加えなければ、ひょっとしたら大柴胡湯と命名しないのかもしれない。
参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』 績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社
生薬イメージ画像:
『中医臨床家のための中薬学』 医歯薬出版株式会社
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為沢