打鍼の手法より

打鍼はふかく刺すことなかれ、
一身は栄衛をもっと主とすることなり、
鍼経に云く、
浮気の経に随ひ運る者を衛気といふ、
其精気の経にしたがひてめぐる者を栄といふ、
気は血道の外をうかして、
かろくめぐるぞ、
血は筋の底を流れめぐる者なり、
気は陽、衛なり、
血は陰、栄なり、
気は外をめぐりて肌肉をあたため、
血は筋の内をながれて肌膚を潤す、
ころに依て打針はふとくして
槌にてうつゆへ栄衛をうごかし骨髄へ徹ゆる理なり。

手法は病人にたちより左の足をしき
右の膝をたて土を右の方に置べし、
まづ槌の置所を定めざれば忘るもの也。
さて針を口に含み、左の手にて病人の腹をうかがひ、
左の中指を食指のうしろに重ねて穴にをき、
針を左の中指と食指の間にさしはさみ、
ハリ先の肌にさはらぬほどにして槌をとり、
針を打つなり。

皮を切るに痛まざるやうに打つなり、
針入ること一分ほどにして槌手応えあり、
二三分より深く入るべからず、
打つて気血をうごかし、
推して肉に徹し、
ひねりて補瀉迎随をおこなう。
針を抜いて後針口を閉づべし。
推手つよく、槌をかろく打べし、
推手よはく槌になまりあれば痛むなり。
槌の打ちやうは乱になく一、
二とかぞゆる如く手づまよく打べし、
打針の本意は腹ばかりに用ひて外の経に用ひず、
諸病はみな五臓より生ずるにより其の本をもとめて治す。
或は目、筋、爪を病むときは肝の腑に刺す、
鼻、皮、気を煩ふときは肺の腑に刺す、
余はみなこれにてしるべし。

(鍼灸重宝記より)

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