こんにちは、為沢です。
写真は奈良公園の鹿さんです。鹿せんべい持って無いから、そっぽ向かれちゃいました。
ではここからは、張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。
今回の傷寒論は弁太陽病脈証并治(中)百十七章と百十八章、百十九章。
百十七章では、誤って焼鍼を用いて発汗させ奔豚となった場合の証治について。
百十八章では、火逆煩躁の証治について。
百十九章では、傷寒証で温鍼を用いて、驚証が生じる病機について述べている。
弁太陽病脈証并治(中)百十七章
燒鍼令其汗、鍼處被寒、核起而赤者、必發奔豚、
氣從少腹上衝心者、灸其核上各一壯、與桂枝加桂湯。更加桂二兩也。方六十一。
桂枝五兩、去皮 芍藥三兩 生薑三兩、切 甘草二兩、炙 大棗十二枚、擘
右五味、以水七升、煮取三升、去滓、溫服一升。
和訓:
焼針にて其をして汗せしめ、針所に寒を被り、核起こりて赤きものは、
必ず奔豚を発す。気少腹従り上りて心を衝くものは、
其の核上に灸すること各一壮、桂枝加桂湯を与う。
更に桂枝二両を加うるなり。方六十一。
桂枝五両、皮を去る 芍薬三両 生薑三両、切る 甘草二両、炙る 大棗十二枚、擘く
右五味、水七升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。
本に云う、桂枝湯今桂を加えて満五両とし、桂を加うる所以は、
能く奔豚の気を泄らすを以てなりと。
・燒鍼令其汗
焼鍼とは、鍼体を焼いて熱したものを刺入する火法の一種である。
前章と同じく表証に対して、焼鍼を用いて発汗を試みた。
汗は心の液であるが、焼鍼により無理やり汗を外に泄らすと
必ず心陽を損傷してしまう。
・鍼處被寒、核起而赤者
このとき、鍼を施した部位に寒邪が入り込み、
焼鍼の熱が寒邪によって内に閉じ込められたら、
火となり鬱滞してしまい、発赤、腫脹してしまう。
・必發奔豚、氣從少腹上衝心者
太陽と少陽は経脈が互いの臓府に連絡することで通じ合っている。
そして少陰心と腎はそれぞれ火と水の臓である。
焼鍼によって発汗させたため、心陽・君火が虚して、
下焦の陰とバランスを取ることが難しくなったため、
腎水の上逆が起こり、心陽に影響を与えると
豚が奔走するように気が少腹より衝き上げる症状として現れる。
・灸其核上各一壯、與桂枝加桂湯。更加桂二兩也。
焼鍼の熱が入り、寒邪が表を塞いだ状態になった赤核に灸を一壮加えて寒邪を解く。
その後、桂枝加桂湯を与えて治療をしていく。
桂枝加桂湯
方義
・桂枝
基原:クスノキ科のケイの若枝または樹皮。
桂枝は辛甘・温で、主として肺・心・膀胱経に入り、
兼ねて脾・肝・腎の諸経に入り、
辛散温通して気血を振奮し営衛を透達し、
外は表を行って肌腠の風寒を緩散し、
四肢に横走して経脈の寒滞を温通し、
散寒止痛・活血通経に働くので、
風寒表証、風湿痺痛・中焦虚寒の腹痛・
血寒経閉などに対する常用薬である。
発汗力は緩和であるから、
風寒表証では、有汗・無汗問わず応用でき、
とくに体虚感冒・上肢肩臂疼痛・
体虚新感の風寒痺痛などにもっとも適している。
このほか、水湿は陰邪で陽気を得て
はじめて化し、通陽化気の桂枝は
化湿利水を強めるので、
利水化湿薬に配合して痰飲・畜水などに用いる。
・芍藥
基原:ボタン科のシャクヤクのコルク皮を除去し
そのままあるいは湯通しして乾燥した根。
芍薬には<神農本草経>では赤白の区別がされておらず
宋の<図経本草>ではじめて金芍薬(白芍)と木芍薬(赤芍)が分けられた。
白芍は補益に働き赤芍は通瀉に働く。桂枝湯では白芍を用いる。
白芍は苦酸・微寒で、酸で収斂し苦涼で泄熱し、
補血斂陰・柔肝止痛・平肝の効能を持ち諸痛に対する良薬である。
ここでは白芍を用いる。
白芍は血虚の面色無華・頭暈目眩・月経不調・痛経などには補血調経し、
肝鬱不舒による肝失柔和の胸脇疼痛・四肢拘孿および肝脾不和による
腹中孿急作痛・瀉痢腹痛には柔肝止痛し、
肝陰不足・肝陽偏亢による頭暈目眩・肢体麻木には斂陰平肝し、
営陰不固の虚汗不止には斂陰止汗する。利小便・通血痺にも働く。
・生薑
基原:ショウガ科のショウガの新鮮な根茎。
日本では、乾燥していない生のものを鮮姜、
乾燥したものを生姜を
乾生姜ということもあるので注意が必要である。
生薑は辛・微温で肺に入り発散風寒・祛痰止咳に、
脾胃に入り温中祛湿・化飲寛中に働くので
風温感冒の頭痛鼻塞・痰多咳嗽および水湿痞満に用いる。
また、逆気を散じ嘔吐を止めるため、
「姜は嘔家の聖薬たり」といわれ
風寒感冒・水湿停中を問わず
胃寒気逆による悪心嘔吐に非常に有効である。
・甘草
基原:マメ科のウラルカンゾウ、
またはその他同属植物の根およびストロン。
甘草の甘平で、脾胃の正薬であり、
甘緩で緩急に働き、補中益気・潤肺祛痰・止咳・
清熱解毒・緩急止痛・調和薬性などの性能を持つ。
そのため、脾胃虚弱の中気不足に用いられる。
また、薬性を調和し百毒を解すので、熱薬と用いると熱性を緩め
寒薬と用いると寒性を緩めるなど薬性を緩和し薬味を矯正することができる。
ここでは甘緩和中と諸薬の調和に働く。
・大棗
基原:
クロウメモドキ科のナツメ。またはその品種の果実。
甘温で柔であり、
補脾和胃と養営安神に働くので、
脾胃虚弱の食少便溏や
営血不足の臓燥など心神不寧に使用する。
また薬性緩和にも働き、
峻烈薬と同用して薬力を緩和にし、脾胃損傷を防止する。
ここでは、脾胃を補うとともに
芍薬と協同して筋肉の緊張を緩和していく。
また、生薑との配合が多く、
生薑は大棗によって刺激性が緩和され、
大棗は生薑によって気壅致脹の弊害がなくなり、
食欲を増加し消化を助け、
大棗が営血を益して発汗による
傷労を防止し、
営衛を調和することができる。
誤って焼鍼を用いて発汗させ奔豚となった場合の証治について。
訳:
焼鍼の方法で患者を強制的に発汗させると、鍼を刺した部位は寒気の侵襲を受け、
その結果そこに赤色の核が出現し、そして必ず奔豚証が誘発されるだろう。
患者は少腹部から心胸部に向けて気が突き上げてくるように感じる。
発生した赤核のそれぞれに一壮ずつ灸をすえ、同時に桂枝加桂湯を服用させればよい。
これは桂枝湯に桂枝二両を追加したものである。処方を記載。第六十一法。
桂枝五両、皮を除く 芍薬三両 生薑三両、切る 甘草二両、炙る 大棗十二個、裂く
右の五味を、七升の水で、三升になるまで煮て、滓を除き、一升を温服する。
別本には、桂枝湯の桂枝を増量して五両にする、桂枝を増加するのは、
奔豚の気を抑えるためであると述べている。
弁太陽病脈証并治(中)百十八章
火逆下之、因燒鍼煩躁者、桂枝甘草龍骨牡蠣湯主之。方六十二。
桂枝一兩、去皮 甘草二兩、炙 牡蠣二兩、熬 龍骨二両
右四味、以水五升、煮取二升半、去滓、溫服八合、日三服。
和訓:
火逆之を下し、焼鍼に因って煩躁するものは、桂枝甘草竜骨牡蠣湯之を主る。
桂枝一両、皮を去る 甘草二両、炙る 牡蠣二両、熬る 竜骨二両
右四味、水五升を以て、煮て二升半を取り、滓を去り、八合を温服し、日に三服す。
・火逆下之、因燒鍼煩躁者、桂枝甘草龍骨牡蠣湯主之
誤って火法により発汗させて、逆証になった場合を火逆という。
火逆による変証は激しくなれば陽明腑実証に似てくる。
これを理解せず すぐに下法を用いれば、
心陽が傷つき神気が洩れ、煩燥が現れるのである。
火熱が神明を乱した危険な状態であり、
治療に当たっては、桂枝甘草湯で心気を補って、
陽を循らせていくのを基本に、
龍骨・牡蠣で心気をひきしめ心神を鎮静させていく。
桂枝甘草龍骨牡蠣湯
方義
・桂枝
基原:
クスノキ科のケイの若枝または樹皮。
桂枝は辛甘・温で、主として肺・心・膀胱経に入り、
兼ねて脾・肝・腎の諸経に入り、
辛散温通して気血を振奮し営衛を透達し、
外は表を行って肌腠の風寒を緩散し、
四肢に横走して経脈の寒滞を温通し、
散寒止痛・活血通経に働くので、
風寒表証、風湿痺痛・中焦虚寒の腹痛・
血寒経閉などに対する常用薬である。
発汗力は緩和であるから、
風寒表証では、有汗・無汗問わず応用でき、
とくに体虚感冒・上肢肩臂疼痛・
体虚新感の風寒痺痛などにもっとも適している。
このほか、水湿は陰邪で陽気を得て
はじめて化し、通陽化気の桂枝は
化湿利水を強めるので、
利水化湿薬に配合して痰飲・畜水などに用いる。
・甘草
基原:
マメ科のウラルカンゾウ、
またはその他同属植物の根およびストロン。
甘草の甘平で、脾胃の正薬であり、
甘緩で緩急に働き、補中益気・潤肺祛痰・止咳・
清熱解毒・緩急止痛・調和薬性などの性能を持つ。
そのため、脾胃虚弱の中気不足に用いられる。
また、薬性を調和し百毒を解すので、
熱薬と用いると熱性を緩め
寒薬と用いると寒性を緩めるなど
薬性を緩和し薬味を矯正することができる。
ここでは甘緩和中と諸薬の調和に働く。
・牡蠣
基原:イタボガキ科のマガキ、
その他同属動物の貝殻、通常は左殻が利用される。
牡蠣は鹹渋・微寒で重く、益陰清熱・潜陽鎮驚の効能をもち、
鹹渋で軟堅散結・収斂固渋にも働く。
熱病傷陰の虚風内動・肝陰不足の肝陽上亢・
驚狂煩燥・心悸失眠・自汗盗汗・遺精崩帯・
久瀉不止・瘰癧痰核・肝脾腫大などに有効である。
このほか、煅用すると胃痛吐酸に対し止痛止酸の効果がある。
・龍骨
基原:古代(おもに新生代)も大型哺乳動物の化石。
種々の原動物が知られ、おもなゾウ類のstegodon orientalis (owen)
サイ類のRhinoceros sinensis Owen、ウマ類のHipparion sp.、
シカ・ウシ類のGazella gaudryi Schl.などがある。
竜骨は甘渋で重く、重で鎮心し渋で固脱し、浮陽を潜沈する。
驚狂煩燥・心悸失眠多夢には重鎮安神に、自汗盗汗・遺精滑精
小便不禁・久瀉久痢・便血・婦女滞下不止には収斂固脱に、
陰虚陽亢の頭暈目眩に対しては平肝潜陽に働く。
このほか、外用すると吸湿・止血・生肌斂瘡に働く。
提要:
火逆煩躁の証治について。
訳:
誤って火療法を用いたあと、
さらに攻下法を施し、誤ってさらに焼鍼を加えた結果、
患者が煩躁して不穏になった場合は、
桂枝甘草竜骨牡蠣湯で治療する。
処方を記載。第六十二法。
桂枝一両、皮を除く 甘草二両、炙る 牡蠣二両、焙る 竜骨二両
右の四味を、五升の水で、二升半になるまで煮て、滓を除き、一回八合を、一日三回服用する。
弁太陽病脈証并治(中)百十九章
太陽傷寒者、加溫鍼必驚也。
和訓:
太陽傷寒のものは、温鍼を加うれば必ず驚するなり。
・太陽傷寒者、加溫鍼必驚也
傷寒表実証に温鍼で大汗させると
心陽を損傷し、心を虚弱にさせるため、
驚証が生じ、さらに火邪が神明を乱して
神気を外に洩らしてしまうので、
「加溫鍼必驚也」と書かれている。
提要:
傷寒証で温鍼を用いて、驚証が生じる病機について。
訳:
太陽傷寒の患者を、もし誤って
温鍼で治療すると必ず驚狂を誘発するだろう。
参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』 績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社
『東洋医学講座・取穴篇』 自然社
生薬イメージ画像:
『中医臨床家のための中薬学』 医歯薬出版株式会社
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為沢