こんにちは、為沢です。
先日、NHKの番組で
戦場カメラマンのロバート・キャパの特集があり、
その内容はノンフィクション作家の沢木耕太郎氏が
キャパを一躍有名にした「崩れ落ちる兵士」という
一枚の写真の真相を追うという構成でした。
どうやら、当時キャパに同行していた
ゲルダ・タローという女性の存在が鍵を握る
写真だったみたいです。
現在、横浜美術館で
「ロバート・キャパ / ゲルダ・タロー 二人の写真家」
という展覧会が開催されております。
御興味のある方は是非。
ここからは、張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。
今回の傷寒論は弁太陽病脈証并治(中)百七章。
この章では、誤って下法を行った結果、
邪熱が内陥した場合の証治について述べている。
弁太陽病脈証并治(中)百七章
傷寒八九日、下之、
胸満煩驚、小便不利、譫語、
一身尽重、不可転側者、柴胡加龍骨牡蠣湯主之。方五十七。
柴胡四兩 ・竜骨・黄芩 ・生薑切・
鉛丹・人参・桂枝去皮・茯苓各一両半
半夏二合半、洗・大黄二両・ 牡蠣一両半、熬・大棗六枚、擘
右十二味、以水八升、煮取四升、内大黄、切如碁子、
更煮一両沸、去滓、溫服一升。本云、柴胡湯、今加竜骨等。
和訓:
傷寒八九日、之を下し、胸満煩驚して、小便利せず、譫語し、
一身尽く重く、転側すべからざるものは、
柴胡加龍骨牡蠣湯之を主る。方五十七。
柴胡四兩 ・竜骨・ 黄芩 ・生薑切・ 鉛丹・人参・ 桂枝去皮・ 茯苓各一両半
半夏二合半、洗・ 大黄二両・ 牡蠣一両半、熬・ 大棗六枚、擘
右十二味、水八升を以て、煮て四升を取り、大黄を、碁子の如くに切りて内れ、
更に煮ること一両沸、滓を去り、一升を温服す。本に云う、柴胡湯、今竜骨等を加うと。
・傷寒八九日、下之
傷寒にかかり8、9日。
邪は未だに表にある時に誤って攻下した結果、
邪は半表半裏の少陽に内陥し、熱化する。
・胸満煩驚
「胸満」というのは胸脇苦満と同義で少陽病の主症状。
「煩驚」の煩は心煩のことで、内陥した邪熱が少陽に入って鬱滞すれば
経絡の流れに沿って上方に影響を与えるので、胸苦しくなり、
気分がイライラとして驚きやすくなる。
・小便不利
少陽病の邪が、同気相通の手三焦に直達するので、
少陽枢機が失調し、三焦の水分調節の働きが弱まれば小便の出が悪くなる。
・譫語
熱邪が胃に入れば、譫語を発するようになる。
・一身尽重、不可転側者
少陽・厥陰の気機が阻滞され
流展できないために全身が重くて転側もできない。
・柴胡加竜骨牡蠣湯主之
小柴胡湯
(こちらを参照→【古医書】傷寒論を読む:弁太陽病脈証并治(中)三十六・三十七章)で
少陽枢機を疏通し、桂枝で残存する
表邪を解するとともに少陽枢機の開通を補助する。
苦寒の大黄は厥陰邪熱を下泄し、
鉛丹・竜骨・牡蠣は鎮心安神し、いずれも厥陰を安和する。
利水の茯苓は水道を通利して
三焦の阻結を緩和するとともに、安神にも働く。
病勢が深く病状が急であるから、
緩和の甘草は除いている。
柴胡加竜骨牡蠣湯
方義
・柴胡
基原:セリ科のミシマサイコ、またはその種の根。
日本や韓国で栽培利用されているのは本種である。
柴胡は苦微辛・微寒で芳香を有し、軽清上昇して宣透疏達し、
少陽半表半裏の邪を疏散して透表泄熱し、清陽の気を昇挙し、
かつ肝気を疏泄して欝結を解除する。
それゆえ、邪在少陽の往来寒熱に対する主薬であり、
肝気欝結の胸脇脹痛・婦女月経不調や
清陽下陥の久瀉脱肛などにも常用する。
・竜骨
基原:古代(おもに新生代)も大型哺乳動物の化石。
種々の原動物が知られ、おもなゾウ類のstegodon orientalis (owen)
サイ類のRhinoceros sinensis Owen、ウマ類のHipparion sp.、
シカ・ウシ類のGazella gaudryi Schl.などがある。
竜骨は甘渋で重く、重で鎮心し渋で固脱し、浮陽を潜沈する。
驚狂煩燥・心悸失眠多夢には重鎮安神に、自汗盗汗・遺精滑精
小便不禁・久瀉久痢・便血・婦女滞下不止には収斂固脱に、
陰虚陽亢の頭暈目眩に対しては平肝潜陽に働く。
このほか、外用すると吸湿・止血・生肌斂瘡に働く。
・ 黄芩
基原:
シソ科のコガネバナの周皮を除いた根、内部が充実し、
細かい円錐形をしたものを条芩、
枝芩、尖芩などと称し、
老根で内部が黒く空洞になったものを枯芩、
さらに片状に割れたものを片芩と称する。
黄芩は苦寒で、苦で燥湿し寒で清熱し、
肺・大腸・小腸・脾・胆経の湿熱を
清利し、とくに肺・大腸の火の清泄に
長じ肌表を行り、安胎にも働く。
それゆえ、熱病の煩熱不退・肺熱咳嗽・湿熱の痞満・瀉痢腹痛・
黄疸・懐胎蘊熱の胎動不安などに常用する。
また瀉火解毒の効能をもつので、
熱積による吐衄下血あるいは
癰疽疔瘡・目赤腫痛にも有効である。
とくに上中二焦の湿熱火邪に適している。
・生薑
基原:
ショウガ科のショウガの新鮮な根茎。
日本では、乾燥していない生のものを鮮姜、
乾燥したものを生姜を
乾生姜ということもあるので注意が必要である。
生薑は辛・微温で肺に入り発散風寒・祛痰止咳に、
脾胃に入り温中祛湿・化飲寛中に働くので
風温感冒の頭痛鼻塞・痰多咳嗽および水湿痞満に用いる。
また、逆気を散じ嘔吐を止めるため、
「姜は嘔家の聖薬たり」といわれ
風寒感冒・水湿停中を問わず
胃寒気逆による悪心嘔吐に非常に有効である。
・
・鉛丹
基原:黒鉛を製錬して得た
橙紅〜橙黄色の粉末化合物(主成分は四酸化三鉛Pb3O4)
鉛丹は辛寒かつ沈重で、血分に入り、
外用すると解毒止痒・収斂生肌の効果があり、
癰瘡腫毒・潰瘍不斂・黄水湿瘡などに有効であり、
外用の膏薬の主原料として用いられる。
内服すると截瘧・墜痰鎮驚に働き瘧疾・驚癇癲狂などに適する。
・人参
基原:
ウコギ科のオタネニンジンの根。
加工調整法の違いにより
種々の異なった生薬名を有する。
人参は甘・微苦・微温で中和の性を稟け、
脾肺の気を補い、生化の源である
脾気と一身の気を主る肺気の充盈することにより、
一身の気を旺盛にし、
大補元気の効能をもつ。元気が充盈すると、
益血生津し安神し智恵を増すので、
生津止渇・安神益智にも働く。
それゆえ、虚労内傷に対する第一の要薬であり、
気血津液の不足すべてに使用でき、
脾気虚の倦怠無力・食少吐瀉、
肺気不足の気短喘促・脈虚自汗、
心神不安の失眠多夢・驚悸健忘、
津液虧耗の口乾消渇などに有効である。
また、すべての大病・久病・大吐瀉による
元気虚衰の虚極欲脱・脈微欲絶に対し、
もっとも主要な薬物である。
・ 桂枝
基原:
クスノキ科のケイの若枝または樹皮。
桂枝は辛甘・温で、主として肺・心・膀胱経に入り、
兼ねて脾・肝・腎の諸経に入り、
辛散温通して気血を振奮し営衛を透達し、
外は表を行って肌腠の風寒を緩散し、
四肢に横走して経脈の寒滞を温通し、
散寒止痛・活血通経に働くので、
風寒表証、風湿痺痛・中焦虚寒の腹痛・
血寒経閉などに対する常用薬である。
発汗力は緩和であるから、
風寒表証では、有汗・無汗問わず応用でき、
とくに体虚感冒・上肢肩臂疼痛・
体虚新感の風寒痺痛などにもっとも適している。
このほか、水湿は陰邪で陽気を得て
はじめて化し、通陽化気の桂枝は
化湿利水を強めるので、
利水化湿薬に配合して痰飲・畜水などに用いる。
・茯苓
基原:サルノコシカケ科のマツホドの外層を除いた菌核。
茯苓は甘淡・平で、甘で補い淡で滲湿し、
補脾益心するとともに利水滲湿に働き、
脾虚湿困による痰飲水湿・食少泄瀉および
水湿内停の小便不利・水腫脹満に必須の品であり、
心脾に入って生化の機を助け寧心安神の効能をもつので、
心神失養の驚悸失眠・健忘にも有効である。
茯苓の特徴は「性質平和、補して峻ならず、利して猛ならず、
よく輔正し、また祛邪す。脾 虚湿盛、必ず欠くべからず」といわれるが、
性質が緩やかであるところから補助薬として用いることが多い。
・半夏
基原:サトイモ科のカラスビシャクの塊茎の外皮を除去して乾燥したもの。
半夏は辛散温燥し、水湿を行らせ逆気を下し、
水湿を除けば脾が健運して痰涎は消滅し、逆気が下降すると
胃気が和して痞満嘔吐は止むので燥湿化痰・和胃消痞・降逆止嘔の良薬である。
それゆえ、脾虚生痰の多痰、痰濁上擾の心悸・失眠・眩暈、
痰湿犯胃の悪心嘔吐・飲食呆滞・心下痞結にもっとも適する。
また、適当な配合を行えば、痰湿犯胃の咳喘・胃虚や胃熱の嘔吐・
痰湿入絡の痰核などにも使用できる。
このほか、行湿通腸するので老人虚秘にも効果がある。
生半夏を外用すると癰疽腫毒を消す。
・大黄
基原:タテ科のダイオウ属植物、
およびそれらの種間雑種の根茎。しばしば根も利用される。
大黄は苦寒沈降し気味ともに厚く、
「走きて守らず」で下焦に直達し、
胃腸の積滞を蕩滌するので、
陽明腑実の熱結便秘・壮熱神昏に対する要薬であり
攻積導滞し瀉熱通腸するため、
湿熱の瀉痢・裏急後重や
食積の瀉痢・大便不爽にも有効である。
このほか、瀉下泄熱により
血分実熱を清し清熱瀉火・凉血解毒に働くので
血熱吐衄・目赤咽腫・癰腫瘡毒などの上部実熱にも用い、
行瘀破積・活血通経の効能をもつために、
血瘀経閉・産後瘀阻・癥瘕積聚
跌打損傷にも適し、
湿熱を大便として排出し清化湿熱にも働くので、
湿熱内蘊の黄疸・水腫・結胸にも使用する。
外用すると清火消腫解毒の効果がある。
・牡蠣
基原:イタボガキ科のマガキ、
その他同属動物の貝殻、通常は左殻が利用される。
牡蠣は鹹渋・微寒で重く、
益陰清熱・潜陽鎮驚の効能をもち、
鹹渋で軟堅散結・収斂固渋にも働く。
熱病傷陰の虚風内動・肝陰不足の肝陽上亢・
驚狂煩燥・心悸失眠・自汗盗汗・遺精崩帯・
久瀉不止・瘰癧痰核・肝脾腫大などに有効である。
このほか、煅用すると胃痛吐酸に対し止痛止酸の効果がある。
・大棗
基原:
クロウメモドキ科のナツメ。またはその品種の果実。
甘温で柔であり、
補脾和胃と養営安神に働くので、
脾胃虚弱の食少便溏や
営血不足の臓燥など心神不寧に使用する。
また薬性緩和にも働き、
峻烈薬と同用して薬力を緩和にし、脾胃損傷を防止する。
ここでは、脾胃を補うとともに
芍薬と協同して筋肉の緊張を緩和していく。
また、生薑との配合が多く、
生薑は大棗によって刺激性が緩和され、
大棗は生薑によって気壅致脹の弊害がなくなり、
食欲を増加し消化を助け、
大棗が営血を益して発汗による
傷労を防止し、
営衛を調和することができる。
提要:
誤って下法を行った結果、邪熱が内陥した場合の証治について。
訳:
傷寒に罹って八 九日が経ち、攻下法で治療したところ、
患者は胸がつかえて苦しく、イライラおどおどして不穏、
尿量減少、譫語などが現れ、さらに全身が重だるく感じ、
ひどければ寝返りがうてない場合、柴胡加龍骨牡蠣湯で治療する。処方を記載。第五十七法。
柴胡四兩 ・竜骨・ 黄芩 ・生薑切る・ 鉛丹・ 人参・ 桂枝皮を除く・ 茯苓各一両半
半夏二合半、洗う・ 大黄二両・ 牡蠣一両半、焙る・ 大棗六個、裂く
右の十二味(の大黄以外)は、八升の水で、四升になるまで煮てから、碁石大に切った大黄を入れ、
更にしばらく煮て、滓を除き、一升を温服する。別本には、柴胡湯に竜骨などを加えたものとある。
参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』 績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社
生薬イメージ画像:
『中医臨床家のための中薬学』 医歯薬出版株式会社
※画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。
為沢