言葉が言葉でなくなる
文字が色や色彩に置き換わる。
鍼もまた、そこから離れ、
匂いや無形の存在に置き換わる。
人が煮詰めた無数の知恵は
もう、言葉になる前に天地に収まっていると知る。
強く 強く
鍼を握ろうと、
淡く 悲しく 包み慈しむ存在が
すでに備わっている。
名人は去った。
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次章、
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名前を残そうと、
そんなものは残らない。
名前は人の為のものだ。
天地は名で縛ろうともしないし、
名で記憶しようともしない。
全ての感情や行為は
きまぐれな風や火の仕事の範疇ではないのだけれど、
草木やとりわけ表現の少ない岩や石が
ひとつのこらず、その一切を刻印している。
残さずとも残る。
むしろ、消そうとも消えない。