孫思邈が著した総合医書『千金方』は、
それまでの医書からの引用、
そして孫思邈自身の臨床経験からまとめた書物であります。
中でも鍼灸巻は、
かつて存在した経穴書である『明堂経』を復刻したようなものであり、
歴史的にみても価値のあるものだと思います。
ただその鍼灸巻にある
「孔穴主対法」の記述方法が特殊であり、
『『鍼灸名著集成』の解説』によると
孫思邈の意図を後世の医家達が汲み取れず、
誤ったまま校注や後世の医書に引用されているとし、
僕自身もそのまま解釈をしておりました。
その記述方法というのが
「孔穴(経穴)名、主治」というもので
例えば「曲池、主耳痛」となれば、
曲池は耳痛治療に用いるというものであります。
特に問題はないです。
ただ後世に間違って伝わっているものが
「中衝・労宮・少衝・太泉・経渠・列缺、主手掌熱肘中痛」と
複数の経穴になった時に、
主治病症は最初の穴(これでは中衝)のみであり、
その他の穴は「中衝」の病症といくつか同じ、
もしくは類似しているだけという点であります。
これを後世の多くの医家もわからず、
現代の腧穴学にも影響を与えていると
『『鍼灸名著集成』の解説』(黄 龍祥)で書かれています。
古典はこういった元々の著者の意図が
わからないまま校注をかけられているものもあるため、
やはり臨床と学術をすり合わせる必要がありますね。
アイキャッチ画像は
『(元板翻刻)千金方 30巻序目1巻』(京都大学附属図書館所蔵)です。
下野