総合病院の漢方専門のドクターより
紹介を受け、診させて頂く。
担当医は脾腎の陽虚が見られるところに湿邪の侵襲が加わった
ものと考察して附子理中湯合茯苓飲合半夏厚朴湯加減を処方するが、
症状がなかなか取れず、
強い倦怠感もあり生活上の不都合も多く、
職場復帰も出来ないとのことで相談を受ける。
食事もうまく採ることが出来ない。
【初診時】
望舌:
淡白舌にして特有の胖嫩、その上に乗った厚めの白苔より
一見した瞬間に脾の弱りを感じさせられました。
同時に特徴的なのが、
舌自体が淡白であるのに、
舌裏がそれよりもかなり紅いことにあります。
これは経験上、
裏に熱を抱える者の舌状です。
ここで言える事は、
脾の陽気が足りない、或いは虧損しているということ。
しかしながら同時に熱を裏に伏しているということ。
かつ、舌下静脈の怒張の状態から
瘀血が存在するということです。
腹診:
上脘穴から中脘穴に緊張が強く、
これは脾気の弱りから来るものだと考えます。
(脾気が弱るから穴所が虚を呈するだけでなく、
深いものは逆に強い表在の緊張を現すことがあります)
同時に右の京門穴付近、肝胆を現す部位の少し深い反応。
右の少腹の深い反応があり、
これによって、
やはり脾気の弱り・肝気の停滞と相対的な肝血の損傷・瘀血の存在
を感じさせられます。
脈:
数気味にして濡で虚ともいえる脈状。
これは生気が薄く、
その生気の弱りによって脈が早くなっているか、
或いは、裏の熱によって早くなっているのか
どちらかであろうと考察しています。
切経
右陽池に独特の枯れ、
腎経の太谿穴に深い虚、
脾経の地機穴の虚実錯雑の深い情報、
肝経の太衝穴の反応(肝気の久しい緊張と相対的な肝血の損傷を示します)
右申脈の虚(これは衛気の弱りを示します)
左腎兪の深い虚(腎気の落ちを示します)
以上から
脾気虚があり、
それによって生気が生成されずに、
まず体力の弱りがあるところに、
学問的に考えると一見、冷えと熱が両立して矛盾があるように思われますが、
生気が薄いことより一身の気の推進力がかなり低下しているために、
局所に気滞と血の滞りを生じ、
そこが久しくなり、
瘀滞し、一身の陽気の落ちを抱えながら熱を孕み持ったものであると考察しました。
また、脾気の落ちは脾気虚のレベルで脾陽虚まで陰陽の偏重は起こしていないと診て、
処置にはあまり温めたり冷やしたりという要素を入れずに
和しながら行うべきだとも判断。
処置:
脾を建てることで
脈の数は大分緩解し、
脈幅が増したので良いと思いましたが、
戻りやすい印象があったので、
切経時の直感と経験則より、
太谿(腎経の経穴)を加えました。
それにより更に脈が出てきたので、
脾の虚ではなく、
腎の虚に対する処置も必要であったかも知れないと
再考察し、
それはこの後の主訴の変化によって
明らかにしたいと思って課題にしています。
また、心経の霊道の反応が深く気になるので、
上の処置により同時に緩解すれば良いものの、
強く残るようであればこれも加えながら
病因病理を固めなくてはいけないと考える。
処置後は、
頭が温かくなり、
身体が軽くなって楽だと仰いますが、
一日程度しっかりと変化をうかがって頂くよう指示。
《総括と課題》
脾気虚ありて、
それによって副次的に瘀血や内熱がある。
腎の虚はあるが、
これは根本的なものか、
脾の下に来て脾が建てば同時に埋まるものか。
心の深い反応は直接叩くべきか。
【三診目】
ご本人は当日が楽だったと仰るが
舌の状態はあまり良くなっているとは思えない。
白苔が厚くなっていることと、
舌自体も抑える事が出来ずに膨らみ歯根が
より顕著になっている。
これがあまり良くない。
但し、舌裏の舌下静脈の怒張と
舌の表に対する裏の強い紅みはましであるが、
総合的に診ると
印象的にあまり良い感じがしていない。
兎に角、表の気色が抜けて舌が弛緩するのは良くない。
左側の舌裏に潰瘍のようなものもありますね。
脈も濡緩にして虚脈とも言える脈。
これではいけない。
切経を改めてやり直すと、
問診では舌と脾気虚の情報が多いものの、
肝の情報、瘀血の存在、腎気の落ちが
どうも目立つので、
それに従い、
肝の疏泄を但し、
下焦の瘀血を動かしながら同時に
腎気が起きるように処置を立て直す方向に変更。
気虚によって水邪が溢れ歯に当たっていた様子が
大分ましになり舌も引き締まってきました。
数脈もなくなり、
脈幅も大分出てきました。
同時に精神的にも安定し、肉体的にも職場復帰が可能になってきました。
但し、まだ完璧ではなく労働による負担もあるので、
ここからまだまだ生気を建てていくつもりです。
食事も採れるようになってきました。
課題としては、
初診時に脾の気虚があったと思っていたものが、
腎の気虚が中心にあったようだということです。
但し、
腎気を上げることだけではダメで、
同時に肝気をのびやかにしながら下焦の蓄邪を
動かしてようやく成果があがるものでした。
脈より蔵府の活動が大部分改善してきているのが
わかりますので、
これに応じて、舌も適度なあかみを戻し、
同時に残った白苔が丁度よい薄白苔に落ち着くところまで
安定させる必要が今後はあります。
舌周りの肌肉も初診時は痩けていましたが、
大分ふっくらと出てきました。
がんばります。
最近はうちに出入りしている東洋医学の基礎訓練プログラムを
通じて勉強させている鍼師に
舌写真を撮って考察するように
指示しているものの、
久しく自分自身で舌の記事を書いてなかったので
これを機にと書きました。
林