こんにちは、大原です。
前回の続きです。
(前回の記事:その嘔気は少陽病なのか? その1)
前回、傷寒論の太陽病中篇に書かれている
少陽病にみられる嘔気(吐き気)の考え方を確認し(96条、97条)、
同じく太陽病中篇の、123条にも吐き気についての記述があるが
これは小柴胡湯で治すと書かれていないため、
少陽病では無いとされていると述べました。
それでは、123条の吐き気とは
どのようなものなのでしょうか?
<123条>
太陽病、過経十余日、心下温温欲吐而胸中痛、大便反溏、腹微満、鬱鬱微煩。
先此時、自極吐下者、与調胃承気湯。
若不爾者、不可与。
但欲嘔、胸中痛、微溏者、此非柴胡証、以嘔、故知極吐下也。
<96条>
傷寒五六日、
中風、往来寒熱、胸脇苦満、黙黙不欲飲食、心煩、喜嘔、
或胸中煩而不嘔、或渇、或腹中痛、或脇下痞鞕、
或心下悸、小便不利、或不渇、身有微熱、或欬者、
小柴胡湯主之。
<97条>
血弱、気尽、腠理開、邪気因入、与正気相搏、結於脇下。
正邪分争、往来寒熱、休作有時、黙黙不欲飲食。
蔵府相連、其痛必下、邪高痛下、故使嘔也。
小柴胡湯主之。
ポイントとしては、
96条と97条の少陽病では「嘔」とあることから、
すなわち吐こうとする状態が現れ、
123条では「吐」と、実際に吐く状態が現れるということになります。
厳密には
「嘔吐」の「嘔」と「吐」は違いがあり、
「嘔」:吐こうとする状態
「吐」:実際に吐いてしまう状態
となります。
(ただ、臨床的には、どちらも「吐き気がある」と訴える場合が多いと思います)
96条・97条の「嘔」は、胆火反胃によって
胃の降濁作用が失調することによると前回述べました。
123条の「吐」は、
条文によると
「心下温温欲吐而胸中痛」(心下、温温と吐するを欲して胸中痛む)とあります。
この「温温」は「慍慍」とも書いて、
「強い吐き気を感じるが
思うように吐けず気分がイライラとして苦しむ様子」をいうそうです。
それが甚だしく胸中に痛みが生じていることから、
吐き気の強さが激しいといえます。
1つの説として、123条は、太陽病に対して
発汗法ではなく強い吐下法を用いたため、
それが誤治となった状態をいうようです。
・強い吐法 → 強い吐き気が出る
・強い下法 → 大便稀薄、腹部の膨満感
さて、肝腎の、病位はどこにあるのかということですが、
強い吐下による誤治によって邪気が内陥して熱化し、
胃気が下方に降りなくなって
このような「吐」の状態があらわれていると考えられ、
治法としては
胸郭につかえている異物と除き
気機の昇降を調和させることが必要となります。
123条の条文の最後には、
小柴胡湯ではなく調胃承気湯を用いるべきであるが、
強い吐下法を用いたので無いのであれば、
この病理ではないため
調胃承気湯を用いてはならないとされています。
吐き気の症状があり、
胸中が痛んで大便が稀薄であるという
症状だけを見ると、一見少陽病にも思えますが、
そうでない場合もあるという内容の条文でした。
参考文献
『単玉堂傷寒論鍼灸配穴』 中国中医薬出版社
『傷寒雑病論』
『中国傷寒論解説』 東洋学術出版社
興味のおありの方は、ぜひ参考文献もお読みください。
大原
123条の文について質問がございます。
若不爾者、不可与。
但欲嘔、胸中痛、微溏者、此非柴胡証、以嘔、故知極吐下也
これは前文の症状が当てはまらないなら調胃承気湯は処方すべきでない。しかし、柴胡の証でもないと言っているようですがどうするのが正解なのでしょうか。
よろしければ教えていただけますでしょうか。