こんにちは、大原です。
今回は、第2篇の「五臓の五変と五腧」です。
<これまでの記事>
鍼灸甲乙経を読む その1
鍼灸甲乙経を読む その2
では原文からみてみましょう。
<原文>
黄帝問曰「五蔵五腧、願聞其数。」
岐伯対曰「人有五蔵、蔵有五変、変有五腧、故五五二十五腧、以応五時。」
肝為牡蔵、其色青、其時春、其音角、其味酸、其日甲乙。
心為牡蔵、其色赤、其時夏、其日丙丁、其音徴、其味苦。
脾為牝蔵、其色黄、其時長夏、其日戊己、其音宮、其味甘。
肺為牝蔵、其色白、其音商、其時秋、其日庚辛、其味辛。
腎為牝蔵、其色黒、其時冬、其日壬癸、其音羽、其味鹹。
是為五変。
蔵主冬、冬刺井。
色主春、春刺滎。
時主夏、夏刺腧。
音主長夏、長夏刺經。
味主秋、秋刺合。
是謂五変、以主五腧。
曰「諸原安合、以致五腧?」
曰「原独不応五時、以経合之、以応其数、故六六三十六腧。」
曰「何謂蔵主冬、時主夏、音主長夏、味主秋、色主春?」
曰「病在蔵者取之井、
病変于色者取之滎、
病時間時甚者取之輸、
病変于音者取之経、経満而血者、
病在胃、及以飲食不節得病者取之合。
故命曰味主合、是謂五変也。」
人逆春氣則少陽不生、肝氣内変。
逆夏氣則太陽不長、心氣内洞。
逆秋氣則太陰不収、肺氣焦満。
逆冬氣則少陰不蔵、腎氣獨沈。
夫四時陰陽者、萬物之根本也。
所以聖人春夏養陽、秋冬養陰、以従其根。
逆其根則伐其本矣。
故陰陽者、萬物之終始也、順之則生、逆之則死。
反順為逆、是謂内格。
是故聖人不治已病治未病。
諭五蔵相伝所勝也。假使心肺伝肺、肺未病、逆治之耳。
<読みなど>
黄帝問いて曰く
「五蔵に五腧あり、その数をお聞かせ願いたい。」
岐伯対えて曰く
「人に五蔵あり、蔵に五変あり、変に五腧あり、ゆえに五五二十五腧、もって五時に応ず。」
肝は牡蔵と為し、その色は青、その時は春、その日は甲乙、その音は角、その味は酸。
心は牡蔵と為し、その色は赤、その時は夏、その日は丙丁、その音は徴、その味は苦。
脾は牝蔵と為し、その色は黄、その時は長夏、その日は戊己、その音は宮、その味は甘。
肺は牝蔵と為し、その色は白、その時は秋、その日は庚辛、その音は商、その味は辛。
腎は牝蔵と為し、その色は黒、その時は冬、その日は壬癸、その音は羽、その味は鹹。
これを五変という。
蔵は冬を主とし、冬は井を刺す。
色は春を主とし、春は滎を刺す。
時は夏を主とし、夏は腧を刺す。
音は長夏を主とし、長夏は經を刺す。
味は秋を主とし、秋は合を刺す。
これを五変といい、もって五腧を主とする。
曰く
「諸原はいずくんぞ合して、もって五腧に致すか?」
曰く
「原は独り五時に応ぜず、経をもってこれに合し、
もってその数に応ず、ゆえに六六三十六腧。」
曰く
「何すれぞ、蔵は冬を主とし、時は夏を主り、音は長夏を主り、味は秋を主り、色は春を主というや?」
曰く
「病、蔵ある者はこれを井に取り、
病、色に変ずる者はこれを滎に取り、、
病、時に間し、時に甚しき者これを輸に取り、
病、音に変じる者これを経に取り、
経、満ちて血ある者、
病、胃に在りて、および、もって飲食節ならずして病得る者これを合に取る。
ゆえに命じて味は合を主る曰く、
これを五変というなり。」
(『霊枢』順氣一日分為四時篇(第44)の内容より)
人、
春氣に逆らうときは則ち少陽生ぜず、肝氣内に変ず。
夏氣に逆らうときは則ち太陽長ぜず、心氣内に洞す。
秋氣に逆らうときは則ち太陰収せず、肺氣焦満す。
冬氣に逆らうときは則ち少陰蔵せず、腎氣獨り沈む。
それ四時陰陽なる者、萬物の根本なり。
聖人春夏に陽を養い、秋冬に陰を養うゆえんのもの、もってその根に従う。
その根に逆らうときは則ちその本を伐つ。
ゆえに陰陽なる者、萬物の終始なり、これに順なれば則ち生じ、これに逆らえば則ち死す。
順に反するを逆と為し、これを内格という。
これゆえ、聖人は已病を治さず、未病を治す。
(『素問』四気調神大論篇(第2)の内容より)
諭、五蔵の相伝する所に勝つなり。
仮に、心病、肺に伝えしむるを、肺いまだ病ならず、逆いてこれを治すのみ。
今回の内容は
素問、霊枢にみられる、
季節と人・五臓との関係についての内容から編集したものになっています。
『素問』四気調神大論篇(第2)において、
特に季節の気というものが
万物の根本であると表され、
その季節の気に逆らってしまうと臓に病変が起こるとあります。
また、『霊枢』順氣一日分為四時篇(第44)では、
それらの臓の病変についてのまとめ(=「五変」)や、
治療方法についてのまとめがあり、
これら二つの篇の内容が関連して
つながっているようになっていますね。
ちなみに、本文で
「五時」や「四時」とはそれぞれ1年間の季節を意味し、
四時→春、夏、秋、冬
五時→春、夏、長夏、秋、冬
をいいます。
五時や四時のそれぞれの季節が、
五臓のそれぞれと関係しているということですね。
この内容からすると、今は春の季節ですので、
肝の蔵が自然界と相応じていることになり、
逆に春の季節に応じないと肝に病変が生じるとあります。
さて、春の季節に応じるとは
どのようなことをいうのか、
ここでは触れられていませんが、
その内容が
『素問』四気調神大論篇(第2)の他の段落にあり、
春の季節の特徴と、その過ごし方の注意点などが書かれています。
古人の自然のとらえ方は
現代でも参考になるような気がしますので、
興味がある方はぜひ読んでみてはいかがでしょうか。
ちなみに最後に
「聖人は已病を治さず、未病を治す」
とありますが、
これは、先ほどの肝を例にすると
肝に病が発生してから治すのではなく、
肝の病の予兆を嗅ぎ取って、
前もってその予兆の段階で取り除いたり、
肝に病が発生するような習慣などを改めたりして
前もって病を防いでおくということになるでしょう。
参考文献
『鍼灸医学大系 黄帝内経素問』
『鍼灸医学大系 黄帝内経霊枢』雄渾社
『完訳 鍼灸甲乙経(上巻)』三和書籍
興味のおありの方は、ぜひ参考文献もお読みください。