こんにちは、大原です。
前回から、金匱要略の瘧病脉證并治(第5)に入っています。
(前回の記事:金匱要略 瘧病脉證并治(第5) その1)
それでは続きをみていきましょう。
<原文>
侯氏黒散.治大風四肢煩重.心中惡寒不足者.
菊花四十分.白朮十分.細辛三分.茯苓三分.
牡蠣三分.桔梗八分.防風十分.人參三分.
礬石三分.黄芩五分.當歸三分.乾薑三分.
芎藭三分.桂枝三分.
右十四味.杵爲散.酒服方寸匕.日一服.初服二十日.
温酒調服.禁一切魚肉大蒜.常宜冷食.六十日止.
即藥積在腹中不下也.熱食即下矣.冷食自能助藥力.
寸口脉遲而緩.遲則爲寒.緩則爲虚.榮緩則爲亡血.
衞緩則爲中風.邪氣中經.則身痒而癮疹.心氣不足.
邪氣入中.則胸滿而短氣.
<読み>
侯氏黒散は、大風の四肢煩重、心中悪寒、不足の者を治す。
菊花(四十分)
白朮(十分)
細辛(三分)
茯苓(三分)
牡蠣(三分)
桔梗(八分)
防風(十分)
人參(三分)
礬石(三分)
黄芩(五分)
当帰(三分)
乾姜(三分)
芎藭(三分)
桂枝(三分)
右十四味、杵きて散と為し、酒にて方寸匕を服す。
日に一服す。初め服すること二十日。温酒にて調え服す。
一切の魚肉、大蒜を禁ず。
常に冷食に宜し。六十日にして止む。
即ち薬積りて腹中に在って下らざるなり。
熱食すれば即ち下る。冷食は自ずからよく薬力を助く。
寸口の脉、遅にして緩、遅は則ち寒と為し、緩は則ち虚と為す。
栄緩なれば則ち亡血と為す。
衞緩なれば則ち中風と為す。
邪氣経に中れば則ち身痒くして癮疹、
心氣不足して邪氣中に入らば則ち胸満して短氣す。
侯氏黒散(こうしこくさん)という、
あまり聞き慣れない方剤が出てきました。
解説書によると
虚寒証の中風に用いるようです。
<侯氏黒散>
方意:風邪が正気の虚に乗じて侵入し、経絡を直撃して
体内の悪寒とともに四肢の片麻痺を生じた者を、
益気活血と祛風化痰により治す。
方証:本来、陽虚証で気血不足があり、痰飲が多い。
臨床応用:中風(現代の脳血管障害)で四肢片麻痺、あるいは煩重し、悪寒する者。
大まかにとらえると、
気血の虚が少なくない状態で風邪が侵入し、
表証にとどまらず臓腑経絡を直撃してしまった
というようなイメージで良いようです。
ただの「悪寒」ではなく「心中悪寒」と書かれていますが、
臓腑経絡を直撃しているため、
かなり深いところからくる悪寒という感じの意味でしょう。
「冷食が良い」というのは、
冷食ではなく熱食だと
薬が腹中に蓄積されずに排泄されてしまうからである
と書かれています。
気血不足の人に対しては温服させる方が良いのでは?と
思ってしまいますが、
石薬(せきやく:鉱物を用いた薬)は
酒だけは温かくして飲んで、食物は冷食した方が良いという考え方が、
三国六朝から唐の時代にかけてあったようです。
(3世紀〜10世紀はじめのようです。かなり長い期間ですね!)
・癮疹(いんしん):蕁麻疹のこと。
・短気(たんき):呼吸促迫、息切れのこと。
続きます。
<参考文献>
『金匱要略講話』
『傷寒論解説』 創元社
『金匱要略も読もう』 東洋学術出版社
※画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
ぜひ参考文献を読んでみて下さい。
大原