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こんにちは、為沢です。

今回は張景岳ちょうけいがくの『質疑録しつぎろく』の第十章「論疝専屬肝経病不當」です。



和訓:
巣氏の疝症の序に、厥疝、寒疝、氣疝、盤疝、 胕疝、狐疝、瘕疝の名有り。
子和は其の謬りは名色を立てしことに非ず、
陰器を環り少腹に抵る者を以て、
足厥陰肝経の部に屬させ、是を疝に受ける処とせしことなり。
故に凡そ疝は肝木が邪を受けしには非ずして、
則ち肝木が自ら甚しとし、皆な肝経に属させ、
因って七疝の名を立てて、
寒、水、氣、狐、筋、血、㿗と曰い、治は下法を多用す。
丹溪以来、皆な其の説を宗ぎて、亦た未だ得るところなきなり。
夫れ前陰小腹の間は乃ち足三陰、陽明、衝、任、督の三脉の聚る所なり、
豈に独り厥陰経のみを以て言を爲すこと得んや?
但だ本篇の六疝の如きは、皆な風を兼ねて言える者なり、
本より外入の風には非ず、風は肝に属し、肝は筋を主る、
故に凡そ各経を病むの疝を、其の病が筋に在ること多く、
皆な肝邪を挟むと謂うなれば則ち可し、
若し必ず厥陰一経のみに在ると謂うは則ち不可なり。


疝証について
巣元方『諸病源候論』の定義では…

“諸疝者、陰氣積於內、復為寒氣所加、使榮衛不調、
血氣虛弱、故風冷入其腹內而成疝也。
疝者、痛也。或少腹痛、不得大小便、或手足厥冷、
繞臍痛、自汗出、或冷氣逆上搶心腹、令心痛、或裏急而腹痛。
此諸候非一、故云諸疝也。脈弦緊者、疝也。”

和訓:
諸疝は、陰氣が內に積もり、復た寒氣の加わる所と為り、
榮衛は調わず、血氣は虛弱し、故に風冷が其の腹內に入りて疝を成するなり。
疝は痛なり。或いは少腹痛み、大小便を得ず、或いは手足厥冷して、
臍を繞りて痛み、自汗出る、或いは冷氣が逆上して心腹を搶き、
心痛ならしむ、或いは裏急して腹痛す。
此の諸候は一つに、諸疝と云うなり。
脈の弦緊なる者は、疝なり。

とあるように、陰寒が凝集して疼痛する証候をすべて「疝」とされた。

・また、巣元方『諸病源候論』に疝証は七つに分類されて記載されている。

七疝候
“七疝者、厥疝、癥疝、寒疝、氣疝、盤疝、胕疝、狼疝、此名七疝也。
厥逆心痛、足寒、諸飲食吐不下、名曰厥疝也。
腹中氣乍滿、心下盡痛、氣積如臂、名曰癥疝也。
寒飲食即脅下腹中盡痛、名曰寒疝也。
腹中乍滿乍減而痛、名曰氣疝也。
腹中痛在臍旁、名曰盤疝也。
腹中臍下有積聚、名曰胕疝也。
小腹與陰相引而痛、大便難、名曰狼疝也。
凡七疝、皆由血氣虛弱、飲食寒溫不調之所生。”

和訓:
七疝とは、厥疝、癥疝、寒疝、氣疝、盤疝、胕疝、狼疝(狐疝と同じ)、此を七疝と名づくなり。
厥逆して心痛し足寒く、諸飲食は吐して下らず、名付けて厥疝というなり。
腹中に気が乍ちに満ち、心下尽く痛み、氣の積ること臂の如きを名付けて癥疝というなり。
寒を飲食し即ち脇下腹中尽く痛むを、名付けて寒疝というなり。
腹中が乍ち滿し乍ち減りて痛むを、名付けて氣疝というなり。
腹中の痛みの臍旁に在るを、名付けて盤疝というなり。
腹中の臍下に積聚があった痛む者を、名付けて胕疝というなり。
小腹と陰が相い引きて痛み、大便の難きを、名付けて狼疝というなり。
凡そ七疝は皆な血氣の虛弱、飲食と寒溫が不調に由り生ずる所なり。

・張子和の誤りは七疝の名を
寒・水・気・狐・筋・血・㿗としたことであるのではなく、
疝の病証が前陰部〜少復にかけて痛むものを
足厥陰肝経の病症であると断定したところである。

・疝証は肝木の受邪ではなく、
肝木の自甚であるとし、下法を多く用いてしまった。

『儒門事親』疝本肝經宜通勿塞狀十九
“寒疝、其狀囊冷、結硬如石、陰莖不舉、或控睪丸而痛。
得於坐臥濕地、或寒月涉水、
或冒雨雪、或臥坐磚石、或風冷處使內過勞。

宜以溫劑下之。久而無子。

水疝、其狀腎囊腫痛、陰汗時出、或囊腫而狀如水晶、
或囊癢而燥出黃水、或少腹中按之作水聲。
得於飲水醉酒、使內過勞、汗出而遇風寒濕之氣、
聚於囊中、故水多、令人為卒疝。
宜以逐水之劑下之、有漏針去水者、人多不得其法。

筋疝、其狀陰莖腫脹、或潰或膿、或痛而裡急筋縮、
或莖中痛、痛極則癢、或挺縱不收、或白物如精、隨溲而下。
久而得於房室勞傷、及邪術所使。宜以降心之劑下之

血疝、其狀如黃瓜、在少腹兩旁、橫骨兩端約中、俗云便癰。
得於重感春夏大燠、勞動使內、氣血流溢、滲入脬囊、
留而不去、結成癰腫、膿少血多。宜以和血之劑下之

氣疝、其狀上連腎區、下及陰囊、或因號哭忿怒、
則氣鬱之而脹、怒哭號罷、則氣散者是也。
有一治法、以針出氣而愈者。
然針有得失、宜以散氣之藥下之
或小兒亦有此疾、俗曰偏氣。
得於父已年老、或年少多病、陰痿精怯、強力入房、因而有子、胎中病也。
此疝不治、惟築賓一穴針之。

狐疝、其狀如瓦、臥則入小腹、行立則出小腹入囊中。
狐則晝出穴而溺、夜則入穴而不溺。
此疝出入、上下往來、正與狐相類也。
亦與氣疝大同小異。今人帶鉤鈐是也。宜以逐氣流經之藥下之

㿗疝、其狀陰囊腫縋、如升如斗、不癢不痛者是也。
得之地氣卑濕所生。故江淮之間、湫塘之處、多感此疾。
宜以祛濕之藥下之。”

上記のように、張子和は七疝に対し下法を多く用いて治療していた。

・朱丹溪がこの説を支持したので
その後、多くの医家がこれに従う形になり、
この論に対して十分な検討がされず、誤りにも気づいていない状態である。

・張子和のいう受疝に、前陰〜少復にかけて
足三陰(足太陰、足少陰、足厥陰)足陽明、衝脈、任脈、督脉
の以上の経脈が集まっているところであり、
どうして足厥陰肝経の経脈だけが支配していると云えるのか?

・『素問』四時刺逆従論
(参照→【古医書】素問:其ノ六十四 四時刺逆従論篇
”狐疝風、肺風疝、脾風疝、心風疝、腎風疝、肝風疝”の六疝の名があり、
それぞれを風と言っているが、これは外風ではなく内傷の風のことである。

・『素問』至真要大論篇
(参照→【古医書】素問:其ノ七十四 至真要大論篇
“諸風掉眩、皆屬於肝”
とあるように風は肝に属し、肝は筋を主ることから
疝には各経の疝があるのだが、その病証が筋にあたることが多いので
「皆肝邪を挟む」というのであれば正しい。

・しかし、「厥陰一経にあり」と断言してしまうのは言い過ぎで誤りである。


参考文献:
『中国医典 質疑録』 緑書房
『中国医学の歴史』 東洋学術出版社
『中国鍼灸各家学説』東洋学術出版社
『宋本傷寒論』東洋学術出版社
『現代語訳 黄帝内経・素問』東洋学術出版社
『現代語訳 黄帝内経・霊枢』東洋学術出版社
『校釈 諸病源候論』緑書房

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為沢

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