小柴胡湯の證①
肩脇苦満の毒、浅薄なる者の図なり。
之れ、按じて知るの伝は、図の如く、
脇下肋骨の端を指頭にて揚げ見るに、応うるものあるは、
是れ薄き苦満の毒なり。
又、心下を按じて少しく応うるものあるは、
是れ即ち痞硬なり。世に積聚と号するもの、
此の證多し。凡そ腹證を按ずるに、毒の在る所、
厚深なる者は見易く、浅薄なるものは見難し。然れども、
又、毒浅薄なるが如くにして大いに深きものあり。
是れ毒腹底に在って、悉くは表に顕れざるものなり。
これを攻るときは、其の毒動いて表に顕る其の時、
いよいよ本剤を投じて止むことなく之を攻れば、
或は寒熱往来・或は鬱々として心煩するもの、是れ方證相対して暝眩するなり。
甚だしきものは、振々戦慄して、却って発熱、汗出で瘧状の如く覚ゆるもの、
是れ病毒去るのときなり。必ず恐懼すべからず。益々本剤を用いて可なり。
又、其の外、世に所謂・疫症外邪の類、六気の変に敗れ出でたるものは、
薬を用いざる初めより件の外症なれど、様々に顕わすものあり。
右の診法を詳らかにして、胸脇苦満せば、かまわず此方を投ずべし。
外證に眩して、妄りに方を転ずることなかれ。
又、図の如く、苦満ありて心下痞硬甚しきものあり。
此の時は、先ず苦満をさし置きて、痞硬より攻むべし。
人参湯・桂枝人参湯の類、證を詳らかにして是れを用うべし。
是れのみに限らず、病人諸症あらば、先ず其の甚だしきものより攻むべし。
もし甚だしきものなき時は、上より順に攻むべし。
妄りに合法加減して方法を改易すべからず。
必ず功なきのみならず、却って其の害、多かるべし。
之を戒め、之を戒めよ。凡そ、此の証、大率、心煩あるものなり。
即ち、柴胡、或は人参の心煩なり。兼用は三黄丸、
或は知足斎の解毒丸等、考え用うべし。
画像:
『腹証奇覧 正編2巻』
京都大学貴重資料デジタルアーカイブより
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00004913