こんにちは、大原です。
今回は、「中風針之大事」です。
二十七.中風針之大事
是モ病証諸書ニ有レ之故ニ畧ス左右ノ半身カナ
ハザル治療ニ習アリ
左ノ半身不レ遂ハ邪氣有二右ノ傍
右ノ半身不レ遂ハ邪氣有二左ノ傍
是當流ノ習也邪氣ヲ為レ本可レ針一方ヘ氣血
偏寄故ニ一方虚シテ虚ノ方不レ遂其偏實ノ方
ヲ専ト針シテ虚ニカマハズ針スレバ偏偏氣血虚
ノ方ヘ移リ兩傍平ニナル時ハ不レ遂偏身痊ル
譬ハ秤ノ軽重アルガ如シ諸病ノ發ト云モ氣
血相對シテ軽重ナケレバ平人無病也臟腑ノ
虚實ニ依テ發ル邪實ヲ退クル時ハ平ニナリ
病無是理萬病ニ用ユ扨又卒中風シテ氣ヲ
取失フニハ鳩尾并ニ兩傍ニ針ヲ深スル日ハ
本心ニナル也是針ニテ不二氣付一神闕ニスベシ
鳩尾ニ不レ針前ニ神闕ノ脉ヲ觀ニ脉無バ兎
角死スル人也少ニテモ動脉アラバ針シテ宜シ
扨本心ニナリテノ後ニハ前ノ療治ト可二心得一ナリ
現代の読み方に直します。
是も病証、諸書に之有り。故に略す。
左右の半身かなわざる治療に習いあり。
左の半身遂(かな)わざるは、邪氣右の傍らに有り。
右の半身遂(かな)わざるは、邪氣左の傍らに有り。
これ、当流の習いなり。邪氣を本と為して針すべし。
一方へ氣血偏寄(かたよる)故に一方虚して、
虚の方遂(かな)わずして、その偏実(へんじつ)の方を専らと針して、
虚にかまはず針すれば、偏(かたかた)の氣血、虚の方へ移り兩傍ら平になる時は、
遂(かな)わざる偏身(へんしん)痊(い)ゆる。
譬(たとえ)ば、秤の軽重あるが如し。
諸病の發(お)こると云うも、氣血相対して軽重なければ平人無病なり。
臟腑の虚実に依りて發(お)こる邪実を退くる時は、平(たいらか)になり、病無し。
是の理(り)、萬病に用ゆ。
扨又(さてまた)、卒中風(そっちゅうふう)して氣を取り失うには、
鳩尾并(なら)びに兩傍らに針を深くする日(とき)は本心になるなり。
この針にて氣付けずは神闕にすべし。
鳩尾に針せざる前(さき)に神闕の脉を觀るに脉無くば、兎角死する人なり。
少しにても動脉あらば、針して宜(よろ)し。
扨(さて)、本心になりての後には、前の療治と心得べきなり。
意味ですが、以下のようになると思います。
体の右半身が不随を起こしている場合には
邪気が左の傍らにあり、
体の左半身が不随を起こしている場合には
邪気が右の傍らにある。
気血が一方に偏った場合は、他方は虚となり病となる。
この偏りを邪気とし、
その邪気を病の根本として鍼をすべきで、
これは一方が重くなったら他方は軽くなる秤のようなものである。
気血が左と右で偏り無いときは病がなく、
邪気に鍼をして、偏った気血が虚の方へ移って平らになれば
不随の病は癒える。
この考え方は、不随の病だけでなく、あらゆる病に言えることである。
さて、脳卒中で気を失った場合には、
鳩尾(みぞおち)、ならびにその左右に
深く鍼をすれば気を取り戻す。
これで気を失ったままの場合は神闕(臍)に鍼をすべきである。
神闕(臍)の脈を診て脈が無ければ亡くなってしまうのである。
少しでも神闕(臍)に脈を感じられれば鍼をして良い。
気を取り戻した後の治療は、今までに述べてきた内容を心得よ。
続きます。
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鍼道秘訣集を読む その1 → 鍼道秘訣集序
鍼道秘訣集を読む その2 → 一.當流他流之異
鍼道秘訣集を読む その3 → 二.當流臓腑之辯
鍼道秘訣集を読む その4
鍼道秘訣集を読む その5
鍼道秘訣集を読む その6 → 三.心持之大事
鍼道秘訣集を読む その7 → 四.三清浄
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鍼道秘訣集を読む その21 → 十二.散針
鍼道秘訣集を読む その22 十三.鍼不抜抜事
鍼道秘訣集を読む その23 十四.鍼痛
鍼道秘訣集を読む その24 十五.知必死病者習
鍼道秘訣集を読む その25 十六.吐針
鍼道秘訣集を読む その26 十七.瀉針
鍼道秘訣集を読む その27 十八.車輪之法
鍼道秘訣集を読む その28 十九.実之虚 & 二十.虚之実
鍼道秘訣集を読む その29 二十一.実実 & 二十二.虚虚
鍼道秘訣集を読む その30 二十三.知寒気事
鍼道秘訣集を読む その31 二十四.知腫気来事
鍼道秘訣集を読む その32 二十五.瘧観之大事
鍼道秘訣集を読む その33 二十六.膈之針
参考文献:
『鍼道秘訣集』(京都大学附属図書館所蔵)より
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00003559
(掲載画像は該当部分を抜粋)
『弁釈鍼道秘訣集』 緑書房
※画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。