こんにちは、為沢です。
今回は張景岳の『質疑録』の第五章「論見血無寒」の其の一です。
和訓:
世人の吐衂を患う者多し、而して潔古は則ち曰く、”見血に無寒し”と。
東垣亦た云う、”諸見血は皆な熱に責す”と。
丹溪亦た云う、”血は火無ければ升らず”と。
三家の論出でて、世の吐衂を治する者は、皆な滋陰降火を以て法と爲すなり。
豈んぞ、『内経』の血溢、血泄を論ずるに、六淫の皆く有るを知らんや、
故に『綱目』は失血症を序ぶるに、独り運気六淫の邪を載す。
王海蔵は、”六気は能く人をして失血せしむ、独り一火のみならんや”と云えり。
此の語は千古の聾聵を大いに発す。
・世の中には吐衄(口や鼻から出血する病証)を患う人が多いが、
張潔古は”見血(出血を呈する病証)は寒なし”といい、
李東垣もまた”諸見血は皆熱に責がある”といい、
朱丹溪もまた”血は火がなければ升らず”といっている。
・張潔古(張元素)
こちらを参照→【名医列伝】張元素
・李東垣(李杲 1181年〜1251年)
晩年を東垣老人と号する。
学術思想は
“内に脾胃傷れれば、由りて百病生ず ”
という主張であり、
元気が人の生の根本であり、
脾胃は元気の源であると考えた。
主な著書
『脾胃論』『内外傷弁惑論』
『蘭室秘蔵』『用薬法象』『医学発明』
・朱丹溪(朱震亭 1281年〜1358年)
生涯、丹溪の辺りに住んでいたため、
朱丹溪と呼ばれていた。
学説の基本は「相火論」を基礎にした
“陽は常に余りあり、陰は常に不足す“
との考え方におかれている。
主な著書
『格致余論』『局方発揮』
『傷寒弁疑』『本草衍義補遺』
『外科精要発揮』『金匱鈎元』
『丹溪心法』『丹溪心法附余』
この三者の論のため、医者はことごとく吐衂=熱と解釈し、
滋陰降火法を用いるのが治則になってしまった。
・『黄帝内経』の血溢、血泄の論にはその病因として
六淫の外邪を全て挙げている。
それを踏まえ、『本草綱目』には
失血症を序述するのに運気六淫の邪を独り記載している。
・王海蔵は
“六気は能く人をして失血せしむ、独り一火のみならず”
と云っている。
・王海蔵(王好古 1200年頃〜1264年頃)
字を進之、号を海蔵老人と称する。元代趙州の人。
先に張元素を師とし、のち李杲を師と仰ぎ、
張仲景の学説を崇拝し、
“傷寒は古今の一大病と為す。
陰証一節人を害することもっとも速し“と
特に傷寒陰証の研究に力を注いだ。
主な著書
『陰証略例』『医塁元戒』
『湯液本草』『此事難知』
『斑論萃英』『伊尹湯液仲景広為大法』
『活人節要歌活』『仲景詳弁』
・この発言は千古の聾聵
(聾は耳が聞こえないこと。聵は目が見えないこと。不明なこと。)
を大いに啓発するものである。
参考文献:
『中国医典 質疑録』 緑書房
『中国医学の歴史』 東洋学術出版社
『中国鍼灸各家学説』東洋学術出版社
※画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。
為沢