こんにちは、大原です。
今回は「必死ノ病者ヲ知ルノ習イ」です。
人間ノ百千万ノ念ハ生ノ種也此念ノ有ル内ガ
樂タリ念ヲ離日ハ冥途黄泉ノ古郷ニ歸赴
ク事少モ無レ疑是念ヲ離タル病者ニハ必ズ
不レ可レ針是大事ノ習ヒ也加様ノ義他流二無
レ之故二病者ノ死スル迄モ藥ヲ用針ヲ立テ
下手ノ名ヲ顯ス此習ヒヲ覺タル本道針醫ハ
前廉ヨリ病人ノ死スルヲ知故二上手ノ名ヲ
取扨イカナルヲ念ヲ離タル病者ト觀ナレバ
針スル日病者ノ目二心ヲ付テ可レ觀念ノ離
ザル人ハ針立ル内ニモ四方ヲ看廻ス是者ハ
生ル也又四方ヲ不レ見真直二見テ瞳子ノ不
レ動人ハ必ス死スル人ト觀切テ不レ可レ針是秘
中之秘也
現代の読み方にしてみます。
人間の百千万の念は生の種なり。
この念の有る内が楽しみたり。
念を離るるときは冥途・黄泉の古郷に帰り赴く事少も疑い無し。
この念を離れたる病者には必ず針すべからず。これ大事の習ひなり。
加様の儀、他流にこれ無き故に、病者の死する迄も薬を用い針を立て、
下手の名を顕(あらわ)す。
この習いを覚えたる本道針醫は前廉(かと)より
病人の死するを知る故に、上手の名を取る。
さて、いかなるを念を離れたる病者と観るなれば、
針するとき病者の目に心を付て觀るべし。
念の離れざる人は、
針立てる内にも四方を看廻す。この者(ひと)は生きるなり。
又、四方を見ずして真直に見て瞳子の動かざる人は
必ず死する人と観切(みき)って、針すべからず。
これ秘中之秘なり。
人の百千万の念は、生きようとするもとの種である。
この念がある内が楽しみである。
念が離れるときは、冥途・黄泉(あの世)に帰ることは疑いが無い事である。
この念が離れた病人には鍼をしては絶対にいけない。これは大事な教えである。
他の流派ではこのような念の離れた病人に
薬や鍼で治療するから下手の名を残す。
この大事な教えを知る当流は、
治療の前から病人が死んでしまうことが分かるために上手の名を取る。
では、どのような場合に、念が離れたということが分かるのだろう。
鍼をするときに病人の目に注意して観察することが大事である。
念の離れている人で、鍼を立てあちこち見回す人は生きるであろう。
しかし鍼を立てても視線が真っ直ぐで動かない人は
死んでしまうと判断すべきであり、見切って、鍼をしてはならない。
これは秘中の秘とするものである。
この記述の内容では、
生死を彷徨う病人が助かるかどうかの
重要な考え方として
「念」があるかどうかということが記されています。
「念」のない、生死を彷徨うような方を
まだ私は担当したことはありませんが、
実際に現場で立ち会った場合には
一度治療してみてどうか、とおそらく考えると思いますし、
おそらく間違ってはいないことだろうとも思います。
続きます。
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鍼道秘訣集を読む その1 → 鍼道秘訣集序
鍼道秘訣集を読む その2 → 一.當流他流之異
鍼道秘訣集を読む その3 → 二.當流臓腑之辯
鍼道秘訣集を読む その4
鍼道秘訣集を読む その5
鍼道秘訣集を読む その6 → 三.心持之大事
鍼道秘訣集を読む その7 → 四.三清浄
鍼道秘訣集を読む その8
鍼道秘訣集を読む その9
鍼道秘訣集を読む その10
鍼道秘訣集を読む その11
鍼道秘訣集を読む その12
鍼道秘訣集を読む その13 → 五.四脉之大事
鍼道秘訣集を読む その14
鍼道秘訣集を読む その15 → 六.火曳之針
鍼道秘訣集を読む その16 → 七.勝纍之針
鍼道秘訣集を読む その17 → 八.負曳之針
鍼道秘訣集を読む その18 → 九.相曳之針
鍼道秘訣集を読む その19 → 十.止針
鍼道秘訣集を読む その20 → 十一.胃快ノ針
鍼道秘訣集を読む その21 → 十二.散針
鍼道秘訣集を読む その22 十三.鍼不抜抜事
鍼道秘訣集を読む その23 十四.鍼痛
参考文献:
『鍼道秘訣集』(京都大学附属図書館所蔵)より
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00003559
(掲載画像は該当部分を抜粋)
『弁釈鍼道秘訣集』 緑書房
※画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。