こんにちは、大原です。
脉のとらえ方について、前回の続きになります。

〜Back Number〜
鍼道秘訣集を読む その1 →  鍼道秘訣集序
鍼道秘訣集を読む その2 → 一.當流他流之異
鍼道秘訣集を読む その3 → 二.當流臓腑之辯
鍼道秘訣集を読む その4
鍼道秘訣集を読む その5
鍼道秘訣集を読む その6 → 三.心持之大事
鍼道秘訣集を読む その7 → 四.三清浄
鍼道秘訣集を読む その8
鍼道秘訣集を読む その9
鍼道秘訣集を読む その10
鍼道秘訣集を読む その11
鍼道秘訣集を読む その12
鍼道秘訣集を読む その13 → 五.四脉之大事


 

五.  ツノ脉之大事 (前回の続き)

ムカシ意齋ト古道三同時ノ人ニテ殊ニ朋友ホウユウ
タリシアイタ意齋夢分ヨリ傳授デンジュシ玉フコノ四ノ脉
ヲ古道三ヘ傳給ツタヘタマフ其後道三用アリテ關東ヘ
下向ノ折節ヲリフシ道中ノ今ノ新井アライトマリクレヌシ
ノ脉ヲトリ玉フニ動氣ノ亂打来ル道三下
人共ヲヨビ一人ツツ脉ヲ玉フニ何レモ災難サイナン
アフ脉ナリシカバ道三不思儀フシキノ念ヲナシ其儘  ノママ
宿ヲタチ夜ト共ニ五六里關東ノ方ヘ下向シ
テ宿ヲカリ心ヲシツメ上下ノモノ迄残マデノコラズ脉ヲ
觀玉フニ平脉也扨モ不思儀ノ事哉ト思ヒ
給フ  ノ新井アライノ山ヨリシテホラガイヌケ出テ新井ノ
諸人災難サイナンアフテ死スル者數モノカズヲ不知其日道
三死ノカレ給フモ是脉相傳ノシルシ也夫ヨリシ
テ道三是  ツノ脉ヲ秘シテタヤスク相傳シ玉フ事ナク
シテツイニ秘シウセヌ今意伯家ニ傳ル  ノ外加様ノ
奇特キドク筆紙ニツクシ難シヨツリヤクス扨又相火シヤウクワ
  フ脉ハトントントント成程早ク來ル脉也コレ
病人ノ脉トガウス相火ノミタレト云ハトントントン
トントントント早ク來ル脉ノ内ニ打切アリコレ
死脉トスル加様の脉は十人ガ十人ハ死スルト
シルベシ此當流ノ大事ナレドモ是  ツノ脉ヲ知テ
療治スル本道針醫アヤマリヲセザレバ非業ヒゴフ
  キ時ハ大ナル善根ト  ヒ  キ記ス扨  ノ脉ノ
處ハ手ニアラホソ神闕シンケツニ指ノハラヲアテテ打
来ル脉ヲ可觀也コノ神闕ヲ當流ニ三セウ
カウス維又相傳事也ヲクニ記シス故畧ス

 


旧(むかし)、意齋と古道三同時の人にて
殊に朋友(ほうゆう)たりし間、
意齋、夢分より伝授し玉う是の四の脉を古道三へ伝え給う。

その後、道三用ありて関東へ下向の折節(おりふし)、
道中の今の新井に泊まり、
日暮れて主の脉をとり観玉うに、動気の乱打来たる。

道三、下人共を呼び、一人ずつ脉を観玉うに、
何れも災難に逢う脉なりしかば、
道三不思儀の念(おも)いをなし、その儘(まま)宿を立ち、
夜と共に五六里関東の方へ下向して宿を借り、
心を静め、上下の者共迄残らず脉を観玉うに平脉なり。
さても不思儀の事哉と思い給う。

その夜、新井の山よりして螺(ほらがい)抜け出て、
新井の諸人災難に逢うて死する者数を知らず。
その日道三死を逃れ給ふも、これ脉相伝の印なり。
夫よりして道三、この四つの脉を秘して
輙(たやす)く相伝し玉う事無くして終(つい)に秘し失(う)せぬ。
今、意伯家に伝る。
この外、加様の奇特筆紙に尽し難し、よって略す。

さて、また、相火と云う脉はトントントンと成程早く来たる脉なり。
これを病人の脉と号す。
相火の乱れと言うは、
トントントントントントンと早く来る脉の内に打切あり。

これを死脉とする。
加様の脉は十人が十人は死すると知るべし。

これ当流の大事なれども、
この四つの脉を知って療治する本道・針醫、
謬(あやま)りをせざれば、
非業の死無き時は大なる善根と念(おも)い、書き記す。

さて、この脉の観どころは手にあらず。
臍中・神闕に指の腹をあてて打来る脉を観るべきなり。
この神闕を当流に三焦の腑と号す。
これまた、相伝事なり。奥に記す。ゆえに略す。


(前回の続き)

意齋と同時代の道三(曲直瀬道三と言われている)が
関東へ向かう道中で、
新井というところの宿(現在の埼玉県?)に泊まろうとした。
日暮れに宿の主人の脉をみたところ「動気の乱」の脉であった。
不思議に思い、下人(奉公人)を呼び出して脉をみたところ
同じような脉であった。

道三は不思議に思い、夜に新井の宿を立ち、
そこから五〜六里ほどの宿にて
全員の脉をみたところ「平脈」となっていた。
やはり道三は不思議に思った。

その夜、新井の山において、
螺(ほらがい)が抜け出るような山崩れが起こり、
多くの人が亡くなった。
道三は死を逃れたが、
意齋から受け継いだこの四つの脉を道三は秘し、
たやすく他人に受け継ぐことはなかった。

また、
「相火」の脉はトントントンとなるほど早く打つ。
これを病人の脉と称す。
「相火の乱れ」の脉はトントントントントントンと早く打つ脉の内に、
打切あり。これを死脉とする。十人がこの脉を打っていたなら、
十人全員が必ず亡くなると知っておくべきである。

脉の詳細は書き尽くせないので略すが、
四つの脉は大事であり、
脉をもって業を行う鍼医がこの四つの脉を知って、
治療で誤らなければ、
日業の死(寿命によらず災難などによって亡くなること)が無いときには
大きな善根(良い報いを招くもと)となることを願い
ここに書き記す。

この四つの脉は、手で診ず
臍中・神闕に指の腹をあてて打ち来たる脉を観るものである。
この神闕を当流では三焦の腑と称する。
これも脉と同じく代々受け継いでいくものであり、
ここでは記述を略す。
———————————————————————————

「四脉之大事」については以上となります。

四脉をまとめると、
「動気」:平脉。遅くなく「トントントン」と打ってくる脉

②「動気の乱れる」:①の平脈の内に「打切」がある脉。
無病の人が呈しているときは、必ず災難に遭うか、大病を患う

③「相火」:病人の脉。トントントンとなるほど早く打つ。

④「相火の乱れる」:死脉。③の早く打つ脉の中に「打切」がある脉。

手ではなく、臍中・神闕に指の腹をあて、打ち来たる脉を観る。
 


参考文献:
参考文献:
『鍼道秘訣集』(京都大学附属図書館所蔵)より
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00003559
(掲載画像は該当部分を抜粋)
『弁釈鍼道秘訣集』 緑書房
『ツムラ メディカル トゥデイ』(漢方医人列伝 曲直瀬道三 http://medical.radionikkei.jp/tsumura/final/pdf/090422.pdf )

※画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。

返事を書く

Please enter your comment!
Please enter your name here