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8月20日(日):第五回、鍼灸学生の為の勉強会〜【医古文・漢文の読み方No.2】〜


こんにちは、為沢です。

今回は張景岳ちょうけいがくの『質疑録しつぎろく』の第一章「論傷寒無補法」の其の二です。




和訓:
独り観ずや仲景の三百九十七法を立て、
脉症の虚寒なる者一百有余なるを、一百十三万定め、
用参者三十、用桂、附者五十余なるを。
いずくんぞ傷寒に補法無しと謂うや。
まして今人の虚を挾める傷寒を患う者は、十の六七なり、
「傷寒に補法無し」との傳誦でんしょうさるる者は、
十の八九、虚して補わず、且つ復た之を攻む、紀に勝う可からず。
故につとめて之を弁ずるは、
欲って時弊を救わんと欲するものにして、補を好むに非さざるなり。


張仲景『中国医学の歴史』より
張仲景『中国医学の歴史』より

”仲景立三百九十七法”とは、
張仲景 著『傷寒論雑病論』三百九十七法のこと。

張仲景ちょうちゅうけい(ほぼA.D150年〜219年)
南郡涅陽の人。後漢末の著名な医学者である。
彼は『内経』などの古典の医籍を広く研究し、
一般の人々の治療経験を広く集め、
自分の臨床経験とをあわせて『傷寒雑病論』十六巻を撰した。
傷寒の六経弁証と雑病の八鋼弁証原則を提唱し、
中医の弁証論治論を発展させた。
また鍼灸を用いて傷寒雑病を治療する
具体的な方法を提起して後世に多大な影響を与えた。

主な著書
『傷寒雑病論』
(後世、『傷寒論』『金匱要略方論』の2種類の書に分割されている)

ここでは、『傷寒論雑病論』三百九十七ある章の中で、
脉症が虚寒証であるものが、百余りもあり、
百十三方を定める中で、人参を用いた薬方が三十方。
桂枝、附子などの補法に用いる薬方が五十方余りある事実を
見てないのであろうか?と疑問を呈しております。


人参
人参

人参
基原:ウコギ科のオタネニンジンの根。
加工調整法の違いにより種々の異なった生薬名を有する。

人参は甘・微苦・微温で中和の性を稟け、
脾肺の気を補い、生化の源である
脾気と
一身の気を主る肺気の充盈することにより、
一身の気を旺盛にし、
大補元気の効能をもつ。
元気が充盈すると、益血生津し安神し智恵を増すので、
生津止渇・安神益智にも働く。
それゆえ、虚労内傷に対する第一の要薬であり、
気血津液の不足すべてに使用でき、
脾気虚の倦怠無力・食少吐瀉、
肺気不足の気短喘促・
脈虚自汗、心神不安の失眠多夢・驚悸健忘、
津液虧耗の口乾消渇などに有効である。
また、すべての大病・久病・大吐瀉による
元気虚衰の虚極欲脱・脈微欲絶に対し、
もっとも主要な薬物である。

桂枝
桂枝

桂枝
基原:クスノキ科のケイの若枝または樹皮。

桂枝は辛甘・温で、主として肺・心・膀胱経に入り、
兼ねて脾・肝・腎の諸経に入り、
辛散温通して気血を振奮し営衛を透達し、
外は表を行って肌腠の風寒を緩散し、
四肢に横走して経脈の寒滞を温通し、
散寒止痛・活血通経に働くので、
風寒表証、風湿痺痛・中焦虚寒の腹痛・
血寒経閉などに対する常用薬である。
発汗力は緩和であるから、
風寒表証では、有汗・無汗問わず応用でき、
とくに体虚感冒・上肢肩臂疼痛・
体虚新感の風寒痺痛などにもっとも適している。
このほか、水湿は陰邪で陽気を得てはじめて化し、
通陽化気の桂枝は
化湿利水を強めるので、
利水化湿薬に配合して痰飲・畜水などに用いる。

附子
附子

附子
基原:
キンポウゲ科のカラトリカブト、その他の同属植物の子根。

加工・炮製して利用することが多い。
附子は辛熱壮烈であり、「走きて守らず」で
十二経を通じ、
下焦の元陽(命火)を峻補して裏の寒湿を除き、
皮毛に外達して表の風寒を散じる。
それゆえに亡陽欲脱の身冷肢冷・大汗淋漓・
吐利不止・脈微欲脱てんなどには回陽救逆し、
腎陽不足の陽痿滑精・腰膝冷弱には補火壮陽し、
脾腎陽虚・陰寒内盛の心腹冷痛・吐瀉転筋には温裏散寒し、
陽虚不化水湿の身面浮腫・腰以下種甚には
助陽行水して冷湿を除き、
風寒湿痺の疼痛麻木には祛風散寒止痛し、
陽気不足の外感風寒で
悪寒発熱・脈沈を呈するときは助陽発表する。
このほか、補益薬と用いると
一切の内傷不足・陽気衰弱に使用できる。


・張景岳の臨床経験では、
傷寒を患っている者で虚を挟んでいる割合が10の内、6~7割を占めている。

・先人の言い伝えによれば
「傷寒に補法なし」で通用するのは10の内、8~9割といわれている。

このように張景岳の臨床経験と当時(流行の?)の学術が合致しないことを述べており、
決して補法を好んでいるわけではなく、患者の虚実を診ず、
“傷寒には攻邪すべし”とする、この時代の風潮を批判しております。
其の三へ続く…


参考文献:
『中国医典 質疑録』 緑書房
『中国医学の歴史』 東洋学術出版社
『中国鍼灸各家学説』東洋学術出版社

※画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。

為沢

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