こんにちは、大原です。
鍼道秘訣集を読むと、
理論や先入観にとらわれないことの重要さに
気付くことができるように感じます。
さて、前回の記事では「二 當流臓腑之辯」の
「心下、脾募、肺先、肝相火」までをみていきました。
今回は、続きの「胃土」についてをみていきましょう!
過去の記事のリンク
鍼道秘訣集を読む その1
鍼道秘訣集を読む その2
鍼道秘訣集を読む その3
(前回の続き 胃腑についての記述から)
胃腑ハ鳩尾下ト臍ノ上トノ間ニ住スル維
人間ノ大事トスル處一身ノ目付處トス
萬物自土生ジテ還終入レ土他流ニハ胃腑
易レ虚甘味ノ物脾胃ノ藥トテ甘物ヲ用
補藥密丸等ヲ用事心得難シ其故ハ日
夜朝暮食處ノ物ハ皆胃中ニ入ガユヘニ餘ノ
蔵腑ト違ヒ易レ實ニ依還テ邪氣トナルユ
ヘニ食後ニ草臥眠ヲ生ジ扨ハ胃火熾ナルガ
故ニ食物ヲ焼胃乾ニヨリ食ヲ澤山ニ好ミ
喰フ其終ニ手足へ腫ヲ出シ土困メハ腎水ヲ
乾シ脾土ヘ吸取レヌルニ依テ腎ノ水モ共ニ乾
キ火トナリ邪ト變ジテ小便止マル加様ノ病ヒ
元胃腑ノ實シ邪トナル事ヲ不レ辨腎虚脾虚
ナレバ補藥等ノ甘味ヲ用ヒ宜ナド云テ用ル
時ハ忽心腹ニナツミ返テ重病トナル是唯燃
火ニ薪ヲ深ガ如シ又甘物腎水ヲモ益ナド
云人有維以テ謬也甘ハ脾土ノ味ヒ土
尅水ノ理ナルニヨリ腎水ノ爲ニハ大敵也何
藥ト可レ成加様ノ違ヒニテ可生病人モ死
趣クヲ非業ノ死ト號ス當流ノ養生針ナド
ニハ兼テ脾胃易レ實邪氣ト成ヤスク龍雷相
火ノ肝易レ實レハ病ト變スル事ヲ悟テ肝胃
ノ亢ザル様ニト針ス夫針ハ金也金ハ水ノ母
ニテ金裏ニ水ヲ含陰中陰ナル金水ヲ以テ
邪熱ヲ鎭退ク胃實ハ邪熱ノ根ト云脾胃
ノ實火ニ甘物ヲ用レバ彌以テ病重ル事
明ナレハ補藥ヲ用テ驗シ無シ胃火熾ニシテ
煩フ病人ハ必ス甘味ヲ好ム是其病ノ好ム
處ナレハ用テ惡不レ用吉右ハ大法奥ニテ漸
漸ニ可レ斷
原文に句読点などを入れ、
適当と思われるところで改行するなどし、
現代的な読み方にしてみたいと思います。
胃の腑は鳩尾の下と臍の上との間に住する。
これ、人間の大事とする処一身の目付處とす。
萬物、土より生じて還た終わり土に入る。
他流には、胃の腑、虚し易し甘き味わいの物、
脾胃の薬とて甘き物を用い、補薬密丸等を用いる事、心得難し。
その故は、日夜朝暮食らう処の物は、皆胃に入るがゆえに余の臓腑と違い、
実し易きに依り、還って邪気となるゆえに、
食後に草臥れ、眠りを生じ、
さては胃火、熾なるが故に食物を焼き、胃乾くにより、食を沢山に好み食う。
その終わりに手足へ腫れを出し、
土、困しめば、腎水を乾かし、脾土へ吸い取られぬるに依って、
腎の水も共に乾き、火となり、邪と変じて小便止まる。
加様の病い、元胃の腑の実し、邪となる事を辨えず、
腎虚、脾虚なれば、補薬等の甘味を用い宜し、などと云うて用いるときは、
忽ち心腹になづみ、返って重病となる。
これ、ただ燃える火に薪を深えるが如し。
又、甘き物、腎水をも益すなどと云う人有り。
これ、以て謬りなり。
甘は脾土の味い、土尅水の理なるにより、腎水の為には大敵なり。何ぞ薬と成べき。
加様の違いにて生くべき病人も死に趣くを非業の死と號す。
当流の養生針などには、兼ねて脾胃実しやすく、邪気と成りやすく
龍雷相火の肝、実し易れば、病と変ずることを悟りて、
肝胃の亢ざるようにと針す。
それ針は金なり。金は水の母にて、金裏に水を含み、
陰中の陰なる金水を以て、邪熱を鎮退く。
胃実は邪熱の根と云う。
脾胃の実火に甘物を用れば、彌以て、
病重る事明なれば、補薬を用いて験無し。
胃火、熾(さかん)にし、煩う病人は必ず甘味を好む。
これ、その病の好む処なれば、
用いて悪く用ずして吉、右は大法奥にて漸漸に断(ことわる)べし。
内容を簡単にまとめてみますと、
他流派では脾胃の薬として甘味を使うようだが、
そもそも胃は実しやすいものであり、
甘味は心腹に停滞しやすくなる性質があり
かえって重病となるので理解しがたい。
また、甘味は脾の味であり、
相剋関係(土剋水)から甘味は腎気を剋すことにもなる。
胃火のさかんな病人は甘味を好むが、
用いてはならないものである。
となります。
参考文献:
『鍼道秘訣集』(京都大学附属図書館所蔵)より
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00003559
(掲載画像は該当部分を抜粋)
『弁釈鍼道秘訣集』 緑書房
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是非参考文献を読んでみて下さい。