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下野です。
本日は『諸病の主薬』の記事になります。
【原文】
補陽、須用黄耆、附子、為主。
補陰、須用当帰、熟地、為主。
補気、須用黄耆、人参、為主
補血、須用当帰、生地、為主
破瘀血、須用帰尾、桃仁、為主。
<第十七に続く>
【解説】
陽を補うには黄耆、附子を使用すべし。
陰を補うには当帰、熟地を使用すべし。
気を補うには黄耆、人参を使用すべし。
血を補うには当帰、生地を使用すべし。
瘀血を破るには帰尾、桃仁を使用すべし。
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◉黄耆
マメ科のキバナオウギ、ナイモウオウギの根。
性味:甘、温
帰経:脾・肺
効能
①補気昇陽
・脾肺気虚で元気がない・易疲労・食欲不振など。
方剤例 → 参耆膏。
②補気摂血
・気不摂血による血便・不正性器出血など。
方剤例 → 帰脾湯。
③補気行滞
・血痺による肢体の痺れ・運動障害・半身不随など。
方剤例 → 黄耆桂枝五物湯。
④固表止汗
・表虚の自汗・盗汗など。
方剤例 → 玉屏風散。
⑤托瘡生肌
・気血不足による皮膚化膿症の化膿が遅い・潰瘍を形成するなど。
方剤例 → 黄耆内托散・帰耆建中湯など。
⑥利水消腫
・気虚の水湿不運による浮腫・尿量減少など。
方剤例 → 防已黄耆湯。
◉附子
キンポウゲ科のハナトリカブトの塊根。
性味:大熱・大辛・有毒
帰経:十二経
効能:
①回陽救逆
・陽気衰微の陰虚内盛、
もしくは大汗、激しい下痢、嘔吐などによる亡陽虚脱で
顔面蒼白や四肢の冷え、脈微弱を呈すときに。
方剤例 → 四逆湯・通脈四逆湯・白通湯。
・陽衰の衛表不固で自汗が止まらない。
方剤例 → 耆附湯。
・大出血による亡陽虚脱に。
方剤例 → 参附湯・参附竜牡湯。
②補陽益火
・腎陽虚の腰や膝が怠く無力で、四肢の冷えや性機能低下や頻尿など。
方剤例 → 右帰飲・右帰丸・八味地黄丸。
・脾腎陽虚の腹が冷え痛む、泥〜水様便などに。
方剤例 → 附子理中湯。
③温陽利水
・腎陽虚の浮腫や腰痛、腰が重怠い、尿少量などに。
方剤例 → 真武湯・牛車腎気丸。
・脾陽虚の浮腫や腹部の膨満感、泥状便などに。
方剤例 → 実脾飲。
④散寒止痛
・風寒湿痺の関節痛、痺れ、冷えなどに。
方剤例 → 甘草附子湯。
・陽虚の風寒表証で、悪寒や発熱があるが脈は沈の時に。
方剤例 → 麻黄附子細辛湯。
◉当帰
セリ科の根をいう。
根頭部を帰頭、主根部を当帰身、支根を当帰尾、
帰身と帰尾を含めて全当帰という。
性味:甘・辛・苦・温
帰経:心・肝・脾
効能:
①補血調経
・血虚による顔色につやがない・頭のふらつき・眩暈・目がかすむ・動悸・月経不順などに。
方剤例 → 四物湯。
・大出血のあと、あるいは気虚をともなうときに。
方剤例 → 当帰補血湯。
・虚寒の腹痛・冷えなどをともなうときもに。
方剤例 → 当帰生姜羊肉湯。
②活血行気・止痛
・気滞血瘀の疼痛・腹腔内腫瘤などに。
方剤例 → 膈下逐瘀湯。
・打撲外傷による腫脹・疼痛に。
方剤例 → 活絡効霊丹。
・痺証のしびれ痛みにも。
・癰疽瘡瘍にも。
③潤腸通便
・腸燥便秘に。
方剤例 → 潤腸丸。
◉熟地黄
ゴマノハグサ科のジオウや、
カイケイジオウの肥大根を乾燥したのち、
酒で蒸して熟製したもの。
性味:甘・微温
帰経:心・肝・腎
効能:
①補血調経
・血虚による顔色にツヤがない、ふらつき、めまい、月経不順や月経痛などに。
方剤例 → 四物湯。
②滋腎益精
・腎陰不足の膝腰のだるさや無力感、遺精、寝汗などに。
方剤例 → 六味地黄丸。
◉人参
ウコギ科のオタネニンジンの根。
性味:甘・微温・微苦
帰経:肺・脾
効能
①補気固脱
・大病・久病・大出血・激しい吐瀉などで
元気が虚衰して生じるショック状態で脈が微を呈するときに。
・亡陽で四肢の冷え・自汗などを呈するときに。
方剤例 → 参附湯。
②補脾気
・脾気虚による元気がない・疲れやすい・食欲不振・四肢無力・泥状〜水様便などの症候に。
・気虚下陥による内臓下垂・子宮下垂・脱肛・慢性の下痢などの症候に。
方剤例 → 補中益気湯。
・気虚下陥
元気がない・疲れやすい・動くと息切れがする・
四肢がだるく無力・立ちくらみ・頭痛・眩暈などに。
・気虚発熱
発熱・体の熱感・自汗・悪風・口渇があり熱い飲食を欲する・息切れ・元気がない。
③益肺気
肺気虚による呼吸困難・咳嗽・息切れ(動くと憎悪する)・自汗などの症候に。
方剤例 → 人参蛤蚧散。
④生津止渇
・熱性の気津両傷で高熱・口渇・多汗・元気がない・脈が大で無力などに。
・気津両傷による元気がない・息切れ・口渇・皮膚の乾燥・脈が細で無力などに。
方剤例 → 加減復脈湯。
・消渇証の口渇・多尿に。
⑤安神益智
・気血不足による心神不安の不眠・動悸・健忘・不安感などに。
⑥その他
血虚に対し補血薬と用いて益気生血し、
陽虚に対し補陽薬と使用して益気壮陽し、
補血・壮陽の効果を強める。
正虚の表証や裏実正虚に、
解表薬や攻裏薬とともに少量を使用する。
◉生地黄
ゴマノハグサ科のジオウや、カイケイジオウの肥大根。
性味:甘・苦・寒
帰経:心・肝・腎
効能
①清熱滋陰
・温熱病の夜間発熱、口乾など。
方剤例 → 清営湯。
②涼血止血
・血熱妄行による吐血、鼻血、血尿、血便など。
方剤例 → 四生丸。
③生津止渇
・熱盛傷津による口渇、口乾など。
方剤例 → 益胃湯。
◉帰尾(当帰)
当帰の尾の部分。
『本草綱目』には
「張元素曰く、
当帰の頭は血止め、尾は血を破り、身は血を和らげる。
時珍曰く、
頭は上部を、身は中部、尾は下部を治するに用いる。」
と記載されている。
◉桃仁
バラ科のモモやノモモなどの成熟種子。
性味:苦・甘・平
帰経:心・肝・大腸
効能:
①破瘀行血
・血瘀の無月経や月経痛、腹腔内の腫瘤に。
方剤例 → 桃紅四物湯。
・産後瘀阻の悪露停滞や下腹部痛、下腹の腫瘤等に。
方剤例 → 生化湯。
・蓄血の狂躁状態、下腹部が硬くてはるの症状に。
方剤例 → 抵当湯。
・打撲外傷の内出血や腫れ、痛みに。
方剤例 → 復元活血湯・桃仁湯。
・火毒壅盛の気滞血瘀による肺化膿症や虫垂炎に。
方剤例 → 大黄牡丹皮湯・腸癰湯。
②潤腸通便
・腸燥の便秘に。
方剤例 → 五仁丸・潤腸丸。
③その他
・気逆の咳嗽や胸郭脾痞満に。
方剤例 → 双仁丸。
<参考文献>
『万病回春解説』 創元社
『万病回春.巻之1-8』 早稲田大学 古典籍総合データベース
『中医臨床のための中薬学』 医歯薬出版株式会社
『本草綱目』 国立国会図書館デジタルコレクション
『東方栄養新書』 メディカルユーコン
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下野