桃軍圓の證⑵
又、一證、此の図の如く、紐を結びたがるが如きもの、之を按せば即ち痛む。
亦、桃軍丸の證なり。始めに云う腹證と異なり、其の腹軟かにして知れ難し。
心を鎮めて探り求むべし。
凡そ此の證、毒の肯綮(肯綮は骨肉の相著く所なり。荘子に出づ)にあたるときは、
大いに下血することあり。驚くべからず、然りと雖も、世医これらの證に至りては、
腹證を審かにせざる故に、治を取ること能わず、終身の患を抱かしめ、
又は治せずして夭死に及ばしむ。豈、哀しからずや。
又、曰く、古今の医書、大率、臍より以下を小腹と名づくと。吾が門、
臍傍より上腹の左右・少しばかりの所を以って小腹とす。
蓋し古今の医書と合わずと雖も、医はもとより事実にして、
動かざるところあるを主とするものなれば、即ち毒のある所を以ってその名を定む。
凡そ此の方の證、世に甚だ多きものにして、余、数百人を治して後、
其の効をいうものなれば、容ること有るべからず。且つ、我が師、鶴先生は、
東洞翁を慕いたる者なれども、其の門に入らずして、
自ら天機の力を以って腹診を究められたるものなれば、其の精妙なる所に至っては、
世俗の論の及ぶ所にあらず。
画像:
『腹証奇覧 正編2巻』
京都大学貴重資料デジタルアーカイブより
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00004913