こんにちは、本多です。
古典を読んでいると、様々な比喩や例え話が出てきます。
例えば、『素問第二十五 宝命全形論篇』の一節について、
鍼を患者に用いる際の注意が書かれており、
気血の変化の捉え方を独特な表現で書かれておりました。
まずは原文からです。
「人有虚実、五虚勿近。
五実勿遠。至其当発、間不容瞚。
手動若務、鍼耀而匀。静意視義、観適之変。
是謂冥冥、莫知其形。見其烏烏、見其稷稷。
従見其飛、不知其誰。伏如横弩、起如発機。」
続いて訳文です。
「患者には虚実の別があるが、
五虚の症状が現れたときにも、
軽率に治療を行ってはいけないし、
五実の症状が現れたときにも、
安易に治療を放棄してはいけない。
鍼を退くべきときには速やかに退き、
一瞬たりともおろそかにしてはならない。
手指に全神経を集中させ、
清潔で均衡のとれた鍼を用いて、
心を静かに意を平らかにして刺し、
適切な時間を見計らって鍼刺の気が至るのを観察する。
その血気の変化は目で見ることができませんが、
気が至るときはあたかも烏が一斉に集合するかのようであり、
気が盛んなときは、
あたかも稷(きび)が勢いよく繁茂するかのような印象を与える。
気の往来はあたかも鳥の飛翔を見るかのように、
その変化の形跡を目で見てとらえるすべはない。
用鍼の方法は、
気がまだ至らないときには、
ちょうど弩を横たえて発射を待つときのように、
鍼を留めて気を候い、気が応じたときには、
ちょうど弩(大きな弓)の箭(矢)が発射されるときのように、
迅速に鍼を抜く。」
気の動きを目で捉えることが出来ない事に対して、
「気が至るときは烏が一斉に集まるような」
「気が盛んなときは稷(きび)が勢いよく繁茂するような」
と書かれてあります。
この経文では、目に見えない気の捉え方について
烏や稷、弓矢の比喩を用いて本質を伝えようとしております。
この一節で「お〜 なるほど!」と
古人と感覚を共有し対話できた気になれたことに感動しました。
臨床の現場では、私が患者さんに伝える側になりますが、
目に見えない気の概念だったり、東洋医学の神髄を伝えるのに
古医書から表現の大事さを教わった気がします。
本多
参考文献:
『素問』 たにぐち書店
『素問 ハンドブック』 医道の日本社
『現代語訳◉黄帝内経素問 上巻』 東洋学術出版社