こんにちは、為沢です。
今回の傷寒論は
弁太陽病脈証并治(上)十七章・十八章・十九章について御紹介致します。
十七章では、飲酒常習者と桂枝湯について。
十八章では、喘息を持病とする人が太陽中風証を罹った時について。
十九章では、内熱が盛んな人と桂枝湯について詳しく御紹介して参ります。
弁太陽病脈証并治(上)
十七章
若酒客病、不可与桂枝湯、得之則嘔、以酒客不喜甘故也。
和訓:
若し酒客の病ならば、桂枝湯を与うべからず。
之を得れば則ち嘔し、酒客は甘きを喜ばざるを以ての故なり。
・酒客、不可与桂枝湯
飲酒常習者には桂枝湯を与えてはいけない。
・得之則嘔、以酒客不喜甘故也
桂枝湯を服用すると嘔吐することがある。
飲酒は湿熱を生じさせるため、
飲酒を常習している人は常に湿熱内蘊している。
桂枝湯に含まれる桂枝や生薑は辛温の性質があり熱をよく助け、
また、甘草による甘味は湿を助けるため、
酒客で湿熱内蘊している者には桂枝湯を与えてはいけない。
提要:
酒飲みの人が太陽中風を罹った場合、
桂枝湯を与えてはいけないことについて。
訳:
もし普段からよく酒を飲む人が太陽中風を罹ったら、
桂枝湯で治療することはできない。
もし服用すれば嘔吐し、これは酒好きの人には
辛温や甘味の薬が適合しないからである。
十八章
喘家、作桂枝湯、加厚朴杏子佳。六。
和訓:
喘家は桂枝湯を作り、厚朴杏子を加えて佳なり。六。
・喘家
もともと喘息を持病とする病人のこと。
・作桂枝湯、加厚朴杏子佳
桂枝湯に厚朴を加え輸脾寛胸を、
杏仁を加え宣降肺気をそれぞれ行っている。
方義
・桂枝湯(桂枝・芍藥・甘草・生薑・大棗)
こちらを参照→【古医書】傷寒論を読む:弁太陽病脈証并治(上) 十二章・十三章
・厚朴
厚朴は苦辛・温で、
苦で下気し辛で散結し温で燥湿し、
下気除満・燥湿化痰の効能を持ち、
有形の実満を下すとともに無形の湿満を散じる。
それゆえ、食積停留・気滞不通の胸腹脹満
大便秘結、湿滞傷中の胸腹満悶・嘔吐瀉痢に適する。
また、燥湿化痰・下気降逆にも働き、
痰湿壅肺・肺気不降による喘咳にも有効である。
ここでの厚朴の働きは輸脾寛胸に作用する。
・杏仁
杏仁は苦辛・温で、肺経気分に入り、
苦降・辛散により下気・止咳平喘するとともに
肺経の風寒痰湿を疏散するので、
外邪の侵襲や痰濁内阻による
肺気阻塞で咳喘・痰多を呈するときに適する。
熱には清熱薬を、寒には温化薬を、
表邪には解表薬を、燥邪には潤燥薬を、
それぞれ加えることにより邪実に対処することができる。
また、質潤で油質を含み、
滑腸通便の効能をもつので、腸燥便秘にも有効である。
ここでの杏仁の働きは宣降肺気に作用する。
提要:
喘家が太陽中風証になった場合の治療方法について。
訳:
もともと喘息の持病がある人で、太陽中風証を罹った場合、
桂枝湯に厚朴と杏仁を加えると効果が良くなる。
十九章
凡服桂枝湯吐者、其後必吐膿血也。
和訓:
凡そ桂枝湯を服して吐するものは、其の後必ず膿血を吐するなり。
おおよそ桂枝湯を服用して吐くような者は、
もともと内熱がきついため、
甘温・辛熱の桂枝湯を服用してはいけない。
桂枝湯を服用すると内熱を助長させひどくなり、
津液が乾くだけでなく血脈も傷付けるので膿血を吐くのである。 提要:
平素より内熱が盛んな人に桂枝湯を与えると
膿血を吐き危険であることを述べている。 訳:
およそ桂枝湯を服用して嘔吐するような人では、
以後に膿血を嘔吐することさえ有り得る。
参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社
『増補 傷寒論真髄』 績文堂
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『中医臨床家のための中薬学』 医歯薬出版株式会社
為沢
いつも楽しみに拝読させて頂いております。
表寒虚の場合、安易に桂枝湯を飲むよう助言してしまう自分への戒めにします。
酒家の太陽中風への方剤について、傷寒論中どの記述を参考にすればよいか助言頂けると幸いです。
初めまして由奈さん。
いつも楽しみに見て頂いていると拝見しました。
単調な解説文なので人気ないだろうなと思っていたところだったので、
コメント頂けてとても嬉しかったです。ありがとうございます!
早速ですが、御質問の回答させて頂きます。
酒家の太陽中風への方剤について、
傷寒論では弁太陽病脈証并治(中)三十四章に記載されており
「葛根黄芩黄連湯」を用いて治療しています。
葛根黄芩黄連湯は、表に邪が残り裏に熱が盛んにある病態に対する湯液で
葛根にて辛涼解表するとともに、胃腸の熱を清し津液を上騰させ、
黄芩と黄連はともに苦寒の性味があり、裏熱を清します。
酒家への桂枝湯は禁忌と記載されていますが
酒家でも湿熱が停滞していない者には桂枝湯は適応できます。
酒家でなくても、脂濃い物や甘い物をよく食し
脾胃に湿熱がきつく停滞している者には桂枝湯は禁忌になりますので御注意下さい。
これからも十分楽しんで頂けるよう試行錯誤しながら続けていきますので、
またコメント頂ければ嬉しいです。
コメントありがとうございます。林です。
横やりを。
これから梅雨で湿が多くなり易いので
気をつけなければなりません。
湿家でなくてもひと注意です。
反応があると学ぶのも楽しいものです為沢を応援してやって下さい。
感謝します。
はやし
丁寧な回答をありがとうございます。
今、手元に『傷寒論』がないので、記憶の範囲での質問で申し訳ないのですが、葛根黄芩黄連湯には「脉促」の記載があったように覚えております。
湿熱が上焦の心肺を衝くという理由で促脉がでるのでしょうか?
どうも林です。
質問ありがとうございます。楽しいですね。ワクワクします。
残念ながら、本日の診療は終わりましてみんな帰ってしまいました。
僕だけ残ってます。。そろそろ出ます。
為沢にも伝え返信させますのでいましばらくお待ち下さい。
葛根黄芩黄連湯の「脉促」の件、
ちなみに由奈さんはどう思われますか?
葛根黄芩黄連湯の脉促について、
湿熱が上焦を衝くため促脉が出るのかと御質問頂きました。
湿熱が裏に停滞し陽気旺盛で脉を早くしている要因の一つではありますが
湿熱が上焦を衝くというより、裏に内陥した表邪が湿熱により熱化され上方へ向い、
上焦の肺がこれを受けるために現れる脉だと思われます。
その為、葛根黄芩黄連湯の促脉は、
湿熱が間接的に内陥した表邪を熱化はさせますが
湿熱だけでは促脉は出ないのではないかと私は考えます。
僕は熱の要素だけで脈が数を呈する事は少ないのではないかと感じています。
気滞や水湿が上焦の気機を阻害すると
上焦の臓腑は回転数を上げてそれをカバーしようとすることは
あると思います。
この場合は、そういう可能性と
或いは邪生闘争によるものではないでしょうか。
臨床的な感覚では上焦の気機が滞り起こる感覚があり、
上焦から下方、中焦へと通り、同時に表が解することで
促脈は確実に取れるように思います。
ちなみに促でありながらも
実様のものと細にして無力のものとでは受ける感覚は
全く異なりますが。
促って熱よりむしろ気滞のほうが出るんじゃないかなあ。
湿由来にしろ、一過性の気滞にしろ。
首を突っ込み、失礼しました。
林
葛根黄芩黄連湯証という設定の中で促を考えますと、
「太陽病.桂枝證.醫反下之.利遂不止.脉促者.”表未解也.” 喘而汗出者」と、
“表未解也”でしかも方剤は葛根が主となっているので、
一義的には数脈は正邪の抗争のためと取ってよいかと思っています。
私にとっては、脈が欠落するのが興味深い所です。
tamezawa先生は、裏に内陥した表邪が湿熱により熱化され上方へ向い、
上焦の肺がこれを受けるために現れるとされていますが、
私の臨床感覚では、湿家の太陽中風で脉の欠落がおこる場合、
未だ表にある邪を解表しようと正気は表へ表へと迫るが、
外邪によって気機が欝滞し既に上焦にたまった水湿邪によって阻まれ、
正気は表に達しきれず、阻まれて脈気が詰まりながらも伸びようとする姿ではないかと感じます。
hayashi先生の言われたように、実様で促と細にして無力で促では受ける感覚は全く異なる、というところに目をつけると数が発生する一因として気滞という考え方も確かに導き出され、興味深いです。
お二方の素晴らしい解釈を頂けて感謝しております。
ありがとうございました。
由奈さんの臨床感覚が私の持っているものと近く
うなずいてしまいました。
なんとも楽しい会話です。
是非、これからも疑問提起して下さい!
たまらなく楽しいです。
また、由奈さんが何者かも気になりますが(キリッ)
ただ者じゃなさそうです★