こんにちは、大原です。
前回(太陽経と膀胱・小腸 その2)の続きです。
これまで、
太陽経(小腸経、膀胱経)の失調と
臓腑(小腸、膀胱)の失調について、
直接的な関わりがあるのかどうかを考察してきました。
具体的には、小腸と膀胱のはたらきによる
水分代謝の作用(例えば小便の生成)についての
古典の記述を確認しております。
(すなわち、太陽経脈の失調が、
小便の生成に関係するかどうか。)
<辨太陽病脈證并治20条>
太陽病、発汗、遂漏不止、其人悪風、
小便難、四肢微急、難以屈伸者、桂枝加附子湯主之。
読み下し
太陽病、汗を発して遂に洩れ止まず、其の人悪風し、
小便難、四肢微急、以て屈伸し難き者は、桂枝加附子湯之を主る。
さて、条文の最後に
「桂枝加附子湯」を用いよ!とあります。
桂枝加附子湯は、桂枝湯に
「炮附子(ほうぶし)」を加えたものだそうです。
(桂枝湯について、詳しい組成などはこちらを参照下さい
→【古医書】傷寒論を読む:弁太陽病脈証并治(上) 十二章・十三章)
・・・「炮附子」?
調べてみましょう。
<附子>
キンポウゲ科のカラトリカブト、その他の同属植物の子根。
加工・炮製して利用することが多い。
→炮(ほう):火熱を加えて薬物を処理する方法の中で、
猛火あるいは熱灰中で急速に加熱し、焦黄に膨張させる方法。
毒性や刺激性を軽減させるのが目的である。
(『中医臨床のための中薬学』より)
(すなわちトリカブトは毒ですので、
加熱することで毒性を減らすということでしょう。
でも加熱するだけでトリカブトの猛毒は消えるのでしょうか・・・?
どなたか教えてください。)
附子は、散寒薬の一つで、
性味は、大辛、大熱、有毒とあります。
「有毒」というのが気になりますが、
強い陽の性質があるといえると思います。
さらに、附子について、
『中医臨床のための中薬学』では
附子は辛熱壮烈であり、十二経を通じ、下焦の元陽(命火)
を峻補して裏の寒湿を除き、皮毛に外達して表の風寒を散じる。
亡陽には回陽救逆、腎陽不足には補火壮陽、
脾腎陽虚、陰寒内盛には温裏散寒し、
陽気不足の外寒風寒では助陽発表する。
ほか、補益薬と用いると一切の内傷不足・陽気衰弱に使用できる。
とあります。
このように、附子は、臨床的にも
陽を強く助ける作用があることがいえると思います。
また、桂枝加附子湯の効能については
温通経脈と記されています。
温めることで寒邪を除き、
経絡の気血の流れを正常にするということです。
傷寒論20条に話を戻します。
20条の条文は、
太陽病に対して発汗法を用いて表邪を除こうとしたが、
自汗(太陽中風証の症状の一つ)が
まだ止まない場合を述べています。
(太陽中風証について:太陽病 その1)
太陽中風証は、体表の衛気が弱り、
風寒邪が侵入することで
自汗などの症状が出るというものですが、
発汗法を用いても汗が止まないということは
なお表邪が除かれていない、
または気の固摂作用が働いていない(発汗しすぎて気虚が発生したため)
といえます。
表邪を追い出そうと汗をかいているので、
津液は汗に利用され、
陰液や気が不足すると読むのが自然と思います。
おそらく小便難の直接的な理由は、この津液不足と思います。
また、津液不足によって手足の筋肉のひきつれなどがおこることを
四肢微急、難以屈伸者と表しているのだと思います。
ですが、太陽病に罹る前から
体質として気虚があった場合、
発汗法を用いてしまうと同じような状況になると思います。
桂枝加附子湯を用いる意味としては
このような気虚の体質に対して、表邪を除くために、
しっかりと陽気をめぐらせるという
意味合いがあるのだと思います。
陽気をめぐらせ、表邪が除かれて
気の固摂作用が回復すれば、
津液不足に陥ることもなくなり、
小便の生成も正常になると思います。
・・・膀胱と小腸の話は
今回出てきませんでしたが、
体質として気虚がある場合には
膀胱や小腸など臓腑の働きも低下すると思います。
そういう意味では、表証にかかった場合、
体表の異常ととらえるだけでなく、
臓腑の失調も関連付けて考察すべきであると、
今回記事を作成して改めて感じました。
参考文献:
『傷寒論を読もう』 東洋学術出版社
『傷寒論真髄』 積文堂
『中医臨床のための中薬学』 医歯薬出版株式会社
『新装版 中医臨床のための方剤学』 東洋学術出版社
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社
*画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
ぜひ参考文献を読んでみて下さい。
大原