張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。
今回の傷寒論は弁少陰病脈証并治 三百十二章。
この章では、少陰病で痰火が傷咽した場合の証治について。
三百十二章
少陰病、咽中傷生瘡、
不能語言、聲不出者、苦酒湯主之。方十一。
半夏洗、破如棗核、十四枚 雞子一枚、去黄、内上着雞子殻中
右二味、内半夏、著苦酒中、以雞子殻置刀環中、
安火上、令三沸、去滓、少少含嚥之、不差、更作三剤。
和訓:
少陰病、咽中傷つき瘡を生じ、語言すること能わず、
声出でざるものは、苦酒場之を主る。
半夏洗う、破ること棗核の如し、十四枚 雞子一枚、黄を去る、内に苦酒を上す、雞子を殻中に着く
右二味、半夏を内れ、苦酒中に著け、雞子殻を以て刀環中に置き、
火上に安んじ、三沸せしめ、滓を去り、
少少含みて之を嚥み、差えざれば、更に三剤を作る。
・少陰病、咽中傷生瘡、不能語言、聲不出者、苦酒湯主之
少陰心火が制限なく経を巡って上炎すれば
咽痛だけでなく、甚だしければ肺金を灼熾し、
痰火が咽喉を閉阻して咽喉が灼傷し、瘡が生じ
咽喉にへばり着き、話にくくなったり、声が出にくくなったりする。
治療は苦酒湯を少し咽喉に含んで
開鬱・泄火を助け、條痰を除いていくのである。
苦酒湯
・半夏
基原:
サトイモ科のカラスビシャクの
塊茎の外皮を除去して乾燥したもの。
半夏は辛散温燥し、水湿を行らせ逆気を下し、
水湿を除けば脾が健運して痰涎は消滅し、
逆気が下降すると
胃気が和して痞満嘔吐は止むので
燥湿化痰・和胃消痞・降逆止嘔の良薬である。
それゆえ、脾虚生痰の多痰、痰濁上擾の心悸・失眠・眩暈、
痰湿犯胃の悪心嘔吐・飲食呆滞・心下痞結にもっとも適する。
また、適当な配合を行えば、
痰湿犯胃の咳喘・胃虚や
胃熱の嘔吐・
痰湿入絡の痰核などにも使用できる。
このほか、行湿通腸するので老人虚秘にも効果がある。
生半夏を外用すると癰疽腫毒を消す。
・雞子
基原:
キジ科ニワトリの卵の白身を用いる。
清熱解毒・潤肺・利咽の効能があり、
咽頭の炎症や嗄声、咳嗽、結膜炎、
下痢、火傷、腫れ物などに用いる。
口内炎に炎症があり、声が出ないときには
半夏・苦酒などと配合する(半夏苦酒湯)
提要:
少陰病で痰火が傷咽した場合の証治について。
『現代語訳 宋本傷寒論』訳を使用:
少陰病に罹り、咽喉部がただれて傷になり、
しゃべることができず、声も出ない場合は、苦酒湯で治療する。
処方を記載。第十一法。
半夏洗う、棗の種の大きさに割る、十四個 鶏子一個、黄味を除く、卵の殻をつけたままにして苦酒を注ぐ
右の二味は、半夏を、卵の中の苦酒に漬け、
たまごの殻に刀の柄の丸くなった所に置いて、
火にかけ、少し沸騰させてから、滓を除き、
少しずつ口に含みながら呑み下し、効果がみられなければ
さらに三剤をつくって服用する。
参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』 績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社
生薬イメージ画像:為沢 画
※画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。
為沢