張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。
今回の傷寒論は
弁少陰病脈証并治 三百八章・三百九章。
三百八章では、膿血便で下痢する者は鍼治療を用いても良いこと。
三百九章では、少陰病で寒濁犯胃する場合の証治について
それぞれ詳しく述べております。
三百八章
少陰病、下利便膿血者、可刺。
和訓:
少陰病、下利して膿血を便するものは、刺すべし。
・少陰病、下利便膿血者、可刺
三百六章・三百七章に続き、この三百八章は
膿血便について詳しくのべた条文である。
便に膿血が混じる者は、
虚証でも実証でもなく、病も寒証でも熱証でもない。
ただ血脈に病が及んでいるので、
鍼で経脈を通し、気血の調養を図ると良いとする。
(この章は、後人による記述という説もあり。)
提要:
膿血便で下痢する者は鍼治療を用いても良い
『現代語訳 宋本傷寒論』訳を使用:
少陰病に罹り、下痢して大便に
膿血が混じる場合は、鍼治療を行ってもよい。
三百九章
少陰病、吐利、手足逆冷、
煩躁欲死者、呉茱萸湯主之。方八。
呉茱萸一升 人参二兩 生薑六兩、切 大棗十二枚、擘
右四味、以水七升、煮取二升、去滓、溫服七合、日三服。
和訓:
少陰病、吐利、手足逆冷し、
煩燥して死せんと欲するものは、呉茱萸湯之を主る。
呉茱萸一升 人参二両 生薑六両、切る 大棗十二枚、擘く
右四味、水七升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、
七合を温服し、日に三服す。
・少陰病、吐利、手足逆冷、煩躁欲死者、呉茱萸湯主之
少陰病で嘔吐、下痢をする場合の多くは、
陽虚で中焦の衰微したからである。
嘔吐・下利を併発する症状を考察
①虚寒で嘔吐・下利をしても、脾虚寒が勝っていれば、
”下痢はするが嘔吐は少ない”
これは太陰病の”自利益甚”である。
(こちらを参照→傷寒論: 弁太陰病脈証并治 二百七十三章)
②胃寒が勝っていれば”嘔吐は激しいが、下痢は少ない”
これは陽明病の”食穀欲嘔者”である。
(こちらを参照→傷寒論: 弁陽明病脈証并治 二百四十三章)
③脾胃両虚で嘔吐・下利に限度はなく、
それが同時に併発するのは、陽絶の変証である。
少陰病の”吐利、手足逆冷、煩躁欲死者”というのがこれにあたる。
本証は胃気虚寒証に属しており、
ここでの呉茱萸湯証は寒邪を受けて少陰病となったもので、
寒濁が上って胃を犯すと嘔吐し、下って陽を迫すると下痢する。
陽気が寒邪によって抑えつけられ傷つけられると
四肢を温養することができないので手足逆冷する。
陽気が寒邪によって抑えつけられているが、
まだ衰退はせず陰寒の邪と充分に抗争できるので、
煩躁が特にひどく、耐えがたい程である。
本証の嘔吐・下痢の症状は
嘔吐が主で下痢は甚だしくはない。
病の中心は中焦の虚寒にあるので、
呉茱萸湯で温胃散寒して降逆止嘔する。
呉茱萸湯
こちらを参照→【古医書】傷寒論: 弁陽明病脈証并治 二百四十二章・二百四十三章
提要:
少陰病で寒濁犯胃する場合の証治について。
『現代語訳 宋本傷寒論』訳を使用:
少陰病に罹り、嘔吐と下痢があり、手足が逆冷し、
極度に煩燥して不穏な場合は、呉茱萸湯で治療する。処方を記載。第八法。
呉茱萸一升 人参二両 生薑六両、切る 大棗十二個、裂く
右の四味を、七升の水で、二升になるまで煮て、滓を除き、
七合を温服し、日に三回服用する。
参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』 績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社
生薬イメージ画像:為沢 画
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是非参考文献を読んでみて下さい。
為沢