張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。
今回の傷寒論は
弁少陰病脈証并治 三百五章・三百六章・三百七章。
三百五章では、少陰病で陽衰陰凝した場合の証治について。
三百六章と三百七章では、少陰病で下痢をして、
気血不固となった場合の証治について。
それぞれ詳しく述べております。
三百五章
少陰病、身體痛、手足寒、脉沈者、附子湯主之。
和訓:
少陰病、身体痛み、手足寒え、骨節痛み、脉沈なるものは、附子湯之を主る。
・少陰病、身體痛、手足寒、脉沈者、附子湯主之
少陰病で陽衰陰凝して気血が滞り、
のびのびとしていないので身体痛をみる。
骨節痛は骨の末端である関節に水寒が浸注することにより生じる。
また手足寒は少陰火衰により
中焦陽気が四肢末端まで達しないことにより起こる。
これら一連の症状は真陽不振、陰寒凝滞によるものであるから、
脈は沈を示すのである。
この場合は附子湯ですみやかに元陽を回復させ
中焦土の機能を働かせていく。
さらにこの治療は下痢などの亡脱症を未然に防ぐ治療にもなる。
これと太陽傷寒証の営衛の気が鬱滞して生じる身痛、
骨節疼痛、発熱などの症状とは、脈の浮沈等で鑑別が可能なため、
臨床では詳細によく診て治療にあたらなければならない。
附子湯
こちらを参照→【古医書】傷寒論: 弁少陰病脈証并治 三百三章・三百四章
提要:
少陰病で陽衰陰凝した場合の証治について。
『現代語訳 宋本傷寒論』訳を使用:
少陰病に罹り、身体が痛み、手足が冷えて、骨節が痛み、
脈は沈であれば、附子湯で治療する。
三百六章
少陰病、下利膿血者、桃花湯主之。
赤石脂一斤、一半全用、一半篩末 乾薑一兩 粳米一升
右三味、以水七升、煮米令熟、去滓、溫服七合、
内赤石脂末方寸匕、日三服、若一服愈、餘勿服。
和訓:
少陰病、下利して膿血を便するものは、桃花湯之を主る。方六。
赤石脂一斤、一半は全用し、一半は末を篩う 乾薑一両 粳米一升
右三味、水七升を以て、米を煮て熟せしめ、滓を去り、
七合を温服し、赤石脂末方寸匕を内れ、日に三服す。
若し一服して愈えば、余は服すること勿かれ。
・少陰病、下利膿血者、桃花湯主之
少陰病の下痢は腎虚及び脾虚に属し、
陽気が下陥して昇らず、気分虚寒となっている。
この場合、桃花湯で中焦を温養し、下痢を止めていくのである。
桃花湯
・赤石脂
基原:
酸化第二鉄 Fe2O3を多量に含む雲母源の粘土塊、
カオリナイト Al2O3・2SiO2・4H2Oを主成分とする。
赤石脂は甘酸渋・温で、
甘温で調中偏補し酸渋で収斂固脱し、質重下降する。
中・下焦の体虚滑脱不禁の久瀉久痢・
崩帯便血・遺精滑泄・胞衣不下などに適する。
外用すると収湿斂瘡生肌に働き、
瘡瘍の久不収口や湿疹湿瘡膿水浸淫に適する。
・乾薑
基原:
ショウガ科のショウガの根茎を乾燥したもの。
古くは皮を去り水でさらした後に晒乾した。
乾姜は生姜を乾燥させてもので
辛散の性質が弱まって辛熱燥烈の性質が増強され、
無毒であり、温中散寒の主薬であるとともに、
回陽通脈・燥湿消痰の効能をもつ。
陰寒内盛・陽衰欲脱の肢冷脈微、
脾胃虚寒の食少不運・脘腹冷痛・吐瀉冷痢、
肺寒痰飲の喘咳、風寒湿痺の肢節冷痛などに適し、
乾姜は主に脾胃に入り温中寒散する。
・粳米
基原:
イネ科イネの種子。玄米。
粳米の性味は平、甘で帰経は脾、胃である。
和胃護津に働き、清熱薬による
傷胃を防止すると共に、
石膏との配合で甘寒生津に働く。
提要:
少陰病で下痢をして、気血不固となった場合の証治について。
『現代語訳 宋本傷寒論』訳を使用:
少陰病に罹って、下痢して大便に
膿血が混じる場合は、桃花湯で治療する。第六法。
赤石脂一斤、半分は粉に篩をかける 乾薑一両 粳米一升
右の三味は、七升の水で、米が軟らかくなるまでよく煮て、
滓を除き、一回に七合を温服するが、
これに方寸匕の赤石脂を入れて、一日に三回服用する。
もし一回の服用で治癒すれば、残りを服用してはならない。
三百七章
少陰病、二三日至四五日、腹痛、
小便不利、下利不止、便膿血者、桃花湯主之。
和訓:
少陰病、二三日より四五日に至り、腹痛し、小便利せず、
下利止まず、膿血を便するものは、桃花湯之を主る。方七。
・少陰病、二三日至四五日、腹痛、
小便不利、下利不止、便膿血者、桃花湯主之
虚が甚だしく、長い間下痢が止まらなければ、
これは気虚及び血虚となり、邪が絡脈を犯して
血分虚寒になっているのである。
長い間の下痢は脾陽を衰微させるので、
脾の統血がされず、便に膿血が混じる。
その色は暗く不鮮明で強い臭気はない。
これは熱性の下痢による膿血便とは正反対の症状である。
久しい下痢は水気も同時に
大腸より出るので、小便は少なく出にくい。
腹痛は寒が甚だしくなることにより生じるのである。
この場合も前章に続き、
桃花湯で中焦を温養し、下痢を止めていく。
提要:
少陰病で下痢をして、気血不固となった場合の証治について。
『現代語訳 宋本傷寒論』訳を使用:
少陰病に罹り、二〜三日から四〜五日になった頃、
腹痛し、小便の出が悪く、下痢が止まらず、
しかも大便に膿血が混ざっている場合は、桃花湯で治療する。第七法。
参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』 績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社
生薬イメージ画像:為沢 画
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是非参考文献を読んでみて下さい。
為沢