こんにちは、大原です。
「熱入血室証」について、『中医弁証学』では
「月経が来潮したばかりの時や、または産後に、
熱邪が裏に入ったり寒邪が火熱して裏に伝わり、
邪熱が虚に乗じて胞宮に侵襲して
熱と血が結すると起こる」とあります。
傷寒論の太陽病 下篇では、
条文143条から145条にかけて論じられています。
条文143条 熱入血室とは
(参考リンク:【古医書】傷寒論: 弁太陽病脈証并治(下)百四十二章・百四十三章)
「血室」とは現代の子宮のことを指すとされており、
「女子胞」「胞宮」ともいわれます。
月経が始まると血室は空虚になり、
太陽病で悪寒発熱がある女性に月経が始まると、
その虚に乗じて表熱が裏の血室に
侵入するとされています。
邪熱が血室に侵入すると血瘀が生じることで、
脈は遅脈になり、
肝の疏泄も阻害され肝気鬱結を生じ、
さらに胸部の硬満を生じます。
この邪熱が心神を侵すと譫言(うわごと)を
発するとされています。
また、熱と血が心竅を閉塞すると
「熱入心包証」に移行するとされ、
これは、心包が熱邪に侵され、
昏睡などの症状を呈する重篤なものを
表します。(『中医弁証学』より)
考え方によっては、
衛気営血弁証の最も深いところが
心包であるともいえ、この「熱入心包証」は
熱邪が非常に深い病位にあるもの
といえます。
条文144条 瘧(おこり)があらわれた場合
(参考リンク:【古医書】傷寒論: 弁太陽病脈証并治(下)百四十四章・百四十五章)
熱入血室証で熱病があらわれた場合について
述べられています。
ここでの熱病は
「瘧(おこり)」(瘧疾(ぎゃくしつ))と表現され、
これは、太陽病の悪寒発熱、少陽病の寒熱往来の
熱病の特徴をもたず、
まず強い悪寒があり
高い発熱があって強い頭痛を伴い、
発汗後に緩解して次の発作まで
平熱になるものとされています。
これに対しては小柴胡湯を用い、
血室の熱邪を除き、
少陽の気血の流通を改善させるのが良いと
されています。(参考リンク「太陽病 小柴胡湯」:太陽病 その10)
条文145条 熱入血室証で、血熱が心を侵す場合
血熱が心に上擾(じょうじょう:入り乱す)し、
譫言や錯乱などの精神症状があらわれる場合について
述べられています。
この症状は、
血熱によるもであることを示すとされており、
人体の陽気と陰気が入れ替わる夜間の時間帯に
陰分に存在する血熱に対して、
陰分に還ってきた外(陽分)からの陽気とが
相争うことでおこるとされています。
この熱は
「胃気及ビ上二焦ヲ犯スコト無クバ必ズ自ズカラ兪ユ」
とあり、月経によって血熱が排泄され
邪熱が自然に消退することを示しています。
すなわち、胃の実熱(陽明病)や、
太陽病の表熱ではないため、
これらと誤治してしまうと
胃気や上焦・中焦の気を損傷してしまうということで、
そのような気の損傷がなければ自然に治癒すると
述べられています。
続きます。
参考文献:
『基礎中医学』 燎原
『傷寒論を読もう』 東洋学術出版社
『中医弁証学』 東洋学術出版社
『中医臨床のための方剤学』 神戸中医学研究会
*画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
ぜひ参考文献を読んでみて下さい。
大原