通り雨
通り雨

こんにちは、大原です。
前回の続きです。

太陽病の表邪が発散されずに
太陽腑証に移った場合、
太陽蓄水証太陽蓄血証に分かれます。

太陽蓄水証に対する方剤は
すでに述べていますように五苓散を用います。
(参考記事リンク:太陽病 その6)

では、太陽蓄血証とはどのようなものか
述べていきたいと思います。

太陽蓄血証とは、太陽病の表邪が解消されず、
邪が太陽の腑である膀胱の血分にあって、
熱と血が結合して熱証と瘀血を生じるものです。

傷寒論の条文106条と124条〜126条に、
太陽蓄血証に関する記述があります。

・条文106条
太陽蓄血証で、いまだ初期にあり
熱証が主である場合
【古医書】傷寒論: 弁太陽病脈証并治(中)百五章・百六章

下焦に溜まっている熱によって
狂ノ如ク」といった
精神疾患が現れるとあります。

熱証が主であり瘀血が比較的軽いことから
大便から瘀血が排泄されることもあり、
そうすれば病は治癒するとあります。

瘀血が排泄されない場合は、
その瘀血を下すようにしなければばりませんが、
先表後裏の原則から、まずは残存している表証を
解消しないといけません。
(参考URL:太陽病 その9)

表証が解消した後、
下焦蓄血証に特有の症状である
少腹急結(下腹部の強い抵抗・疼痛)があれば
桃核承気湯を用いて
裏熱と瘀血を攻撃するとあります。

桃核承気湯は、
瀉熱にはたらく調胃承気湯に、
活血化瘀に働く桃仁
陰血をめぐらせる桂枝を加えたものです。

■組成(『中医臨床のための方剤学』より)
・桃核承気湯
桃仁:12g、大黄:12g、桂枝:6g、炙甘草:6g、芒硝(ボウショウ):6g

調胃承気湯(参考URL:腹證奇覧 調胃承気湯
大黄:12g、炙甘草:6g、芒硝(ボウショウ):6g


・条文124条
「狂ヲ発ス」「少腹鞕満(ショウフクコウマン)」
といった症状が現れる場合
【古医書】傷寒論: 弁太陽病脈証并治(中)百二十三章・百二十四章

膀胱の気化作用が失調すると
尿不利となり太陽蓄水証となりますが、
(参考記事リンク:太陽病 その6)
本条では「小便自ラ利ス」とあり、
太陽蓄水証ではないことから
太陽蓄血証であることを表しています。

上記の106条では
膀胱蓄血証について初期の段階のものについて
述べられていました。106条の中では
症状が、「狂ノ如ク」「少腹急結」とありましたが、
本条では狂ヲ発ス」「少腹鞕満」とあり
区別されています。

少腹鞕満」は、臍より下の腹部が
硬く脹満する症状のものをいいます。

これは、106条の桃核承気湯の場合と比較すると、
桃核承気湯を用いる場合は
瘀血よりも熱邪が旺盛な場合であり、
本条の場合は
熱邪よりも瘀血が強いことを示しているとされています。

これに対して、
瘀血を破血瀉下させる働きをもつ
抵当湯が主治するとされています。

・条文125条
太陽腑病で蓄血によって黄疸が現れた場合について
【古医書】傷寒論: 弁太陽病脈証并治(中)百二十五章・百二十六章・百二十七章

黄疸が現れた場合、
前条と同様に、小便が自利が不利かによって
蓄血証かどうかを判断するとあります。
小便自利であれば蓄血証と判断し、
抵当湯を用いるとされています。

・条文126条
太陽蓄血証で、瘀血や熱邪が
前条・前々条と比較して盛んではない場合
【古医書】傷寒論: 弁太陽病脈証并治(中)百二十五章・百二十六章・百二十七章

本条でも小便自利であることが
蓄血証の判断材料であると
述べられています。

症状は「少腹滿」とあり、
これは下腹が脹満するもので、
前条の「少腹鞕満」に比べて
軽い症状であるとされています。

また、前条や前々条に記載のあった
」という精神疾患についてもみられず、
瘀血や熱邪の程度が比較的軽い場合について
述べられていると考えられています。

この場合は、前条の抵当湯の作用を
穏やかにした抵当丸を用いるとされています。

■組成(『中医臨床のための方剤学』より)
抵当湯
水蛭(スイテツ):9g、虻虫(ボウチュウ):9g、桃仁:5g、大黄:9g、水煎服。

抵当丸
水蛭:6g、虻虫:6g、桃仁:6g、大黄:9g、つき砕いて4丸とし、1丸ずつ煎服する。


最後に、繰り返しになりますが、
下焦に熱邪と瘀血が結びついて停滞した場合に、
どちらが邪の働きとして大きいのかにより、
症状についての表現が異なっていました。

・熱邪 > 瘀血の場合:「狂ノ如ク」「少腹急結」(106条)で、
・瘀血 > 熱邪の場合:狂ヲ発ス」「少腹鞕満」(124条)でした。
これはなぜでしょうか?

おそらくですが、瘀血が盛んな場合の方が
邪実としての進行度や作用が大きく、
下腹部の硬い範囲が広くなるということや、
精神面への影響もより大きくなる
ということなのだと思います。

以上で太陽病中編を終わります。
次回からは、太陽病下編になります。


参考文献:

『基礎中医学』 燎原
『傷寒論を読もう』 東洋学術出版社
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社
『中医臨床のための方剤学』 神戸中医学研究会

*画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
ぜひ参考文献を読んでみて下さい。

大原

 

2 コメント

  1. おそらくですが、瘀血が盛んな場合の方が
    邪実としての進行度や作用が大きく、
       ↑
    とあるけども、
    実際は、熱が強い場合の方が
    邪実としての勢いや症状は激しく、
    瘀血の邪結としての方向が強くなると、
    生気がもはやその場所には届き得ず、
    熱邪、寒邪、湿邪、などあらゆる邪を
    伴い互結するので、
    非常に厄介だぞ。
    これは邪としての進行が強いといえば、
    そうではなく、伏してじっくりと
    進行していく様で、解くにも一定の
    作法がいるので、単純に化瘀しようにも
    本質がわかってないとバラせないので
    よく学んでくれ。

    • ありがとうございます。
      邪の生成やその結びつき、それらの性質について
      理解を深めていきます。

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