葛根
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張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。

今回の傷寒論は弁少陰病脈証并治
二百八十三章・二百八十四章・二百八十五章。
二百八十三章では、少陰亡陽証の脉証について。
二百八十四章では、
少陰病に火法を行って発汗させ、変証になった場合について。
二百八十五章では、
少陰病で虚熱がある場合、発汗法は禁忌であるとことについて。
それぞれ詳しく述べております。


二百八十三章

病人脉陰陽倶緊、反汗出者、
亡陽也、此屬少陰、法當咽痛而復吐利。

和訓:
病人の脉陰陽倶に緊、反って汗出ずるものは、亡陽なり。
此れ少陰に属し、法当に咽痛して復た吐利すべし。


病人脉陰陽倶緊、反汗出者、亡陽也、此屬少陰
脉証で寸関尺の三部分が緊脉を示している。
緊脉は脉が緊張して有力な脉状である。これは寒盛を示す。
これが太陽傷寒証の脉であれば、
発熱、無汗となるのだが、無汗ではなく、汗出してまだ発熱していない。
これは少陰病で、陰寒内盛して陽が虚し、
外に達することができない亡陽証であり、
それによる脉沈緊である。

法當咽痛而復吐利
邪実正虚を表す脉であるため、
真火が虚して経に沿って上浮するので
咽ばかりか、中焦土が虚衰して下痢、嘔吐が生じている。
これは大変危険な状態なので、急いで陰を充分に与えて
救わなければいけない。

提要:
少陰亡陽証の脉証について。

『現代語訳 宋本傷寒論』訳を使用:
患者の寸関尺の三部位の脉がいずれも緊であるのに、
かえって汗が出ている場合は、
寒邪が陽気を損傷しており、少陰の病に属する。
理屈からすると、咽喉の痛みや嘔吐ならびに
下痢などの証も出現するはずだ。


二百八十四章

少陰病、欬而下利、讝語者、被火氣劫故也。
小便必難、以強責少陰汗也。

和訓:
少陰病、欬して下利し、
譫語するものは、火気に劫かさるるが故なり。
小便必ず難く、強いて少陰を責め汗せしむるを以てなり。


少陰病、欬而下利、讝語者、被火氣劫故也。
小便必難、以強責少陰汗也

少陰病は精血がどちらも虚しているので発汗法は禁忌であり、
特に火法で発汗させてはいけない。

「被火氣劫」は咳と下痢の病因について述べた文である。
火邪が裏水を攻撃すれば、
上方では肺を、下方では大腸に影響を与えるので
この症状の出現をみる。

肺と大腸は清金、燥金であり、どちらも金に属す。
五行相剋の法則から考えると
火邪が金を剋したことにより咳と下痢が現れたのである。

また、この火邪の攻撃により肺の粛降作用が失調すると
膀胱の気化作用にまで影響は及ぶ。

そして甚だしい場合、火邪は少陰の主る汗液に強く迫り、
精血を消耗させる。

また心の神明を主る働きも失調させるので
譫語を発するのである。

腎は二便を主るから、
腎陰虚耗では気化が行われず、二便の失調となる。
従って必ず小便難となる。

提要:
少陰病に火法を行って発汗させ、変証になった場合について。

『現代語訳 宋本傷寒論』訳を使用:
少陰病に罹り、咳嗽と下痢があって、
さらに譫語を発するのは、誤って火療法を用いたからである。
小便は必ず出にくくなるが、それは少陰病を火療法で無理矢理
発汗させて陰液を損傷したからだ。


二百八十五章

少陰病、脉細沈數、病爲在裏、不可發汗。

和訓:
少陰病、脉細沈数なるは、病裏に在りと為し、発汗すべからず。


少陰病、脉細沈數、病爲在裏、不可發汗
脉が細数なのは陰虚有熱を示し、
加えて沈なのは病が少陰の裏証にあることを表すので
発汗法は禁忌なのである。
この治則を守ることで
津血が消耗して陽気が亡脱する変証を防ぐことができる。

提要:
少陰病で虚熱がある場合、
発汗法は禁忌であるとことについて。

『現代語訳 宋本傷寒論』訳を使用:
少陰病に罹り、脉象が細で沈数であれば、
病変部位は裏に在ることを示しており、発汗法を用いることはできない。


参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』   東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』  績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社

生薬イメージ画像:為沢 画

※画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。

為沢

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