こんにちは、本多です。
今回の腹證奇覧の記事は、
瘡毒家陰茎腐落の図についてです。
瘡毒家陰茎腐落の図
図の如く陰茎腐り落ちて、
其の状、肉臠の爛れるが如くにして、疼痛忍び難し。
其の腹も亦、図の如く、堅塊有りて臍下より鳩尾に至り、
之を按すに自若として動かず。
其の人羸痩して、
時々寒熱往来し、手足の裏熱し、
大便閉し不食す。之れ大承気湯の證なり。
瘡毒とのみ心得て治療するゆえに癒えず。
此の證のみに限らず、凡そ瘡毒と云うも、
皆、腹底に毒あるを以ってなり。
俗に「古湿」と号して、瘡毒の治し難く、
或は鼻梁落ち、
或は耳廃い、
或は山帰来剤などを用いて攻るが故なり。
余、旧に東都にある時、内田某なる人、
博く医書に渉り、又た善く治療をなせり。
余が腹診を唱うるを聞きて、厚く信じて門に入らんこと乞う。
余、其の厚く医に志して深く此の術を好むを嘉して、
卒に腹診の術を伝う。
一日一病客を携え来り診を乞うて云く、
「此の人瘡毒を患いて、
世に所謂、蠟燭下疳と号するものになれり。
前に瘍医(外科)に托して治を受くれども数月効なくして、
遂に陰茎腐落し疼み忍び難し。
余、小柴胡湯及び徳本家の瀉心圓を以って攻れども、
其の効なき以って、先生に托して診を乞」と。
余、之を診するに、
腹底に堅塊ありて臍下より鳩尾に至り自若として動かず。
「是れ大承気の證なり」と云う。
内田子・異みて云く
「予育って諸々の医書を読み、数々衆医に会して奇説を開くと雖も、
未だ先生の診する所の如きを聞ず。
厚く先生を信ずと雖も、是に於て疑を発せざること能わず」と。
余が云く。
「子も亦、後世学の惑未だ脱せざるが故なり。
此の病客の如きは大承気のほか他證なし」と。
乃ち、之を与うること数月にして全く治せり。
大承気湯の方
厚朴(二戔四分)
枳実(一戔五分)
大黄(一戔二分)
芒硝(六分)
右四味、水三盞を以って一盞二分に煎じ厚朴・枳実の滓を去りて大黄を入れ、
六分に煎じ滓を去り芒硝を入れて、一度に服す。日に三度服す。
【大承気湯:組成】
厚朴(こうぼく)
モクレン科のカラホウおよびその変種の樹皮。
性味:苦・辛・温
帰経:脾・肺・胃・大腸
主な薬効と応用:鎮痛・鎮痙
①行気化湿:湿困脾胃や食積気滞の腹満・腹痛・下痢などに用いる。
方剤例⇒平胃散
②下気除満:熱結や裏実気滞の腹満・腹痛・便秘時に用いる。
方剤例⇒厚朴三物湯
③燥湿化痰・下気降逆:痰湿壅肺の咳嗽・呼吸困難に用いる。
方剤例⇒厚朴麻黄湯
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枳実(きじつ)
ミカン科のダイダイ、イチャンレモン、カラタチなどの幼果。
性味:苦・微寒
帰経:脾・胃・大腸
主な薬効と応用
①破気消積:腸胃湿熱積滞による腹痛・便秘あるいは下痢、
裏急後重などの症候時に用いる。
方剤例→枳実導滞丸
②化痰消痞:胸脇の痰飲で胸が痞えて苦しい、
胸が痞えて苦しい・呼吸困難などを呈する時に用いる。
方剤例→導痰湯
備考:破気に働き正気を消耗するので、体壮邪実に用いる。
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大黄(だいおう)
タデ科のダイオウ属植物の根茎や根。
性味:苦・寒
帰経:脾・胃・大腸・肝・心包
主な薬効と応用:緩下・駆瘀血
①瀉熱通腸:胃腸の実熱による、
便秘・腹痛・高熱・意識障害などに用いる。
方剤例⇒大承気湯
②清熱瀉火:火熱上亢による、
目の充血・咽喉の腫痛・鼻出血など上部の火熱の症候に用いる。
方剤例⇒三黄瀉心湯
③行瘀破積:血瘀による無月経や腹痛時に用いる。
方剤例⇒復元活血湯
④清火湿熱:湿熱の黄疸時に用いる。
方剤例⇒茵蔯蒿湯
備考:生用すると瀉下の働きが強くなり、
酒を吹きかけ火で焙ると上部の火熱を清し
活血化瘀の働きが強くなり、
酒とともに蒸すと瀉下の力が緩やかになり、
炒炭すると化瘀止血に働く。
【大承気湯:主治】
陽明病の強実証で、腹部の張り・便秘高熱が続くなどの症候時に用いる。
参考文献:
『生薬単』 NTS
『漢方概論』 創元社
『腹證奇覧 全』 医道の日本社
『中医臨床のための方剤学』
『中医臨床のための中薬学』 神戸中医学研究会
画像:
『腹証奇覧 後編2巻』
京都大学貴重資料デジタルアーカイブより
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00004918
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本多