こんにちは、為沢です。
鍼灸と関係ございませんが書籍紹介致します。
『北斎漫画―初摺(全)』 著:葛飾北斎 小学館
北斎が弟子に残したお手本用の素材集でありまして、
町の童や商人、坊主に武士などの人物画。
あと町の情景や山々や動物、神さまや鬼などなど
江戸時代後期に見受けたであろう(想像物もありますが)
スケッチ画が記録された書籍です。
これ結構高かったので、購入をためらってたのですが
買っちゃいました。大辞典なみに分厚い本なので、
まだ全部見てませんが、いやぁ〜 味わい深いですね。
北斎特有の ふにゃぁ と、キリッとした
メリハリのある絵を楽しむだけでなく、
江戸時代の風情を感じることができます。御興味があれば是非♫
ここからは、張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。
今回の傷寒論は弁太陽病脈証并治(中)百十章と百十一章。
百十章では、太陽病に誤って火法を用いて変証になった場合と、それが自然に治る場合の病理について。
百十一章では、中風証に火法を用いて亡陰の変証になった場合と、その予後について述べております。
弁太陽病脈証并治(中)百十章
太陽病二日、反躁、凡熨其背、而大汗出、
大熱入胃、一作二日内焼瓦熨背大汗出火気入胃。胃中水竭、躁煩必発譫語。
十余日振慄自下利者、此為欲解也。
故其汗従腰以下不得汗、欲小便不得、反嘔、欲失溲、
足下悪風、大便鞭、小便当数、而反不数、及不多、
大便已、頭卓然而痛、其人足心必熱、穀気下流故也。
和訓:
太陽病二日、反って躁するに、凡そ其の背を熨し、而して大汗出で、
大熱胃に入り、一作には二日の内に焼瓦にて背を熨し、大汗出で、火気胃に入ると。
胃中の水竭き、躁煩して必ず譫語を発す。
十余日にして振慄し自ら下利するものは、此れ解せんと欲すと為すなり。
故に其の汗腰従より以下に汗を得ず、小便せんと欲すれども得ず、
反って嘔し、失溲と欲し、足下に悪風し、大便鞭く、小便当に数なるべきに、
而るに反って数ならず、及び多からず、
大便し已りて、頭卓然として痛み、其の人足心必ず熱するは、穀気下流するが故なり。
太陽病にかかって二日目、
本来なら気分がイライラとすることはないが
この症状が現れたのであれば、患者は以前から内熱があり、
表病になったことでこの内熱を発散するルートが断たれ、
逆に内に鬱滞して化熱したと考えられる。
・
・凡熨其背、而大汗出
「熨」とは熱熨療法を指す。熨は、熱いもので押さえるということ。
薬物、あるいは煉瓦や瓦類を熱く焼いたのち、身体に当てて、寒けを去り汗を出させる療法。
上記にある、内熱があり太陽病があるものに誤ってこの熨法を背部に行ってしまう。
背部は腹部に対して陽なので、これによって表熱と裏熱をさらに昂ぶらせて
火邪に化し、勢いをさらに激しくさせ津液が傷ついてしまい多汗になる。
・
・大熱入胃、胃中水竭、躁煩必発譫語
津が傷つき燥となった胃中へ熱が入ると、
胃中の津液はさらに傷つき譫語を発するようになる。
・
・十余日振慄自下利者、此為欲解也
十日余り経って正気が回復し少陰が旺盛になり、
下焦の陰気と上方の陽気と交流するようになるので
胃の気は回復し、穀気を全身に循らせ始めようとする。
この時正邪闘争が展開され、患者は身振いし、
穀気が津液を下方に循らせれば自ら下痢をして邪熱を体外に排出しようとする。
これは病が治ろうとしている兆候である。
・
・故其汗従腰以下不得汗、欲小便不得、
反嘔、欲失溲、足下悪風、大便鞭、小便当数、而反不数、及不多
もし陽明の燥熱が下痢と共に排出されずに上炎すると、
陽気は上逆して嘔吐を生じ、上半身は熱く発汗するが、
下半身には陽気がめぐらないので、足腰が冷えて汗が出ず
思うように排尿できず失禁し、大便も思うように出ないという症状に陥る。
これは火邪が中焦に満ちているため、
上半身の陽と下半身の陰との交流がスムーズに行われず、
穀気が下焦に循っていかないために起きている。
・
・大便已、頭卓然而痛、其人足心必熱、穀気下流故也
もし陽明の燥熱が上炎せず反対に下降すると、
そのとき足下が熱くなり、上半身は陽気がめぐらないので頭の中が空虚になる。
「排便した時にひどく頭痛する」というのは病が治ろうとしている。提要:
太陽病に誤って火法を用いて変証になった場合と、それが自然に治る場合の病理について。
・
訳:
太陽病になってまだ二日というのに、
煩燥状態となったものを誤って背部の熱熨の方法で治療した結果、
滝のような汗が出て、邪熱は勢いにのって胃に入り、
別本には、発病二日以内に、焼いた陶器で背部を熨すと、滝のような汗が出て、火気が胃に入る、と述べている。
胃の津液を枯渇させているので、煩燥して不穏となるばかりか譫語を発するに至る。
十日余りが過ぎて、悪寒戦慄して自然に下痢するなら、やがて病は癒えるだろう。
汗は出るが腰より下に汗が出ず、尿利を得ようとしても尿は出ず、
かえって嘔吐や尿失禁がみられ、足に悪風を感じ、大便が秘結して硬い。
この場合は、尿は頻尿となるはずなのに、かえって尿は頻尿とはならず、
尿量もまた少なく、もし排便後に突然頭痛するなら、
両足の裏は必ず温かくなる。これは水穀の精気が下の方に達するようになったからだ。
弁太陽病脈証并治(中)百十一章
太陽病中風、以火劫発汗、邪風被火熱、血気流溢、失其常度。
両陽相熏灼、其身発黄。陽盛則欲衄、陰虚小便難。
陰陽倶虚竭、身体則枯燥、但頭汗出、剤頚而還、
腹満、微喘、口乾咽爛、或不大便、久則譫語、
甚者至噦、手足躁擾、捻衣摸床。小便利者、其人可治。
和訓:
太陽病中風、火を以て発汗を劫し、邪風火熱を被り、血気流溢し、其の常度を失う。
両陽相熏灼し、其の身黄を発す。陽盛んなれば則ち衄せんと欲し、陰虚すれば小便難し。
陰陽倶に虚竭すれば、身体則ち枯燥し、但だ頭汗出で、頚を剤えて還り、
腹満微喘し、口乾き咽爛れ、或いは大便せず、久しければ則ち譫語し、
甚しきものは噦するに至り、手足躁擾し、捻衣摸床す。小便利するものは、其の人治すべし。
・太陽病中風、以火劫発汗
太陽中風証は本来、桂枝湯で治療していくが
医者は誤って火法を行い、強引に発汗させてしまった。
・ 邪風被火熱、血気流溢、失其常度
風邪は火熱の助けを得て気血に迫り、その流れを大いに乱した。
・両陽相熏灼、其身発黄。陽盛則欲衄、陰虚小便難
風邪と火邪の二つの陽邪が相乗して体を強烈に熱くする結果、黄疸を生じる。
また、上方に害を与えれば鼻血が出やすくなってしまい、
同時に陰の津液も不足しているので小便が出ない。
・陰陽倶虚竭、身体則枯燥、但頭汗出、剤頚而還
気血陰陽ともに虚竭するとさらに重い症状が現れる。
最初に皮膚がカサカサになって潤いを失う。
これは火邪が上方を塞ぎ、真陽が泄ようとしている状態で
続いて頚から上の頭部だけ汗出となる。
これは津液が消耗・枯渇しているので汗はわずかしか出ず陽邪は発散されない。
・腹満、微喘、口乾咽爛、或不大便、久則譫語、甚者至噦
邪熱は発散されないため、裏に侵入し脾胃の働きを失調させ腹満を生じさせる。
肺の宣散作用を失調させると喘咳を生じ、
脾胃の邪熱が上逆すると口内乾燥や咽喉のびらんを生じる。
邪熱が下行して胃腸に結ぶと便秘を生じ、
胃腸の実熱が持続すると胃の津液が枯渇して胃の働きが失調し
しゃっくりやカラえずきが出て、胃熱が心を上擾するので
精神朦朧として譫言を言うようになる。
・手足躁擾、捻衣摸床
高熱でうなされて手足をばたつかせたり、
無意識の中で着衣や寝床をまさぐるように指を動かす動作のこと。
陽熱が非常に旺盛であることを示している。
・小便利者、其人可治
高熱でうなされていても、尿が自然に出るようであれば
まだ体内に津液が残っている証拠なので、回復の望みはある。
提要:
中風証に火法を用いて亡陰の変証になった場合と、その予後について。
訳:
太陽中風証に対し、火法を用いて無理やり発汗させると、
邪風は火熱によってせめたてられ、そして血気の正常の流れは失われる。
邪風と火熱とが同時に熏灼すると、患者の身体は黄色になる。
陽熱亢盛の状態になれば鼻出血が現れ、陰液不足になれば小便困難となる。
もし陰陽どちらも虚弱となり、ひどければ衰絶するに至れば、
皮膚は著しく干からび、そして頭にだけ汗が出るが、頸の所までである。
また腹部膨満、軽い呼吸困難、口の乾燥と咽喉の糜爛、或いは便秘などがみられ
遷延すれば譫語を発し、重篤になれば呃逆すら現れ、手足をせわしく動かし、
捻衣模床するようになる。この時もし尿を通利することができれば、まだ治癒可能である。
おまけ
↑舌診してますね。
鍼でしょうか??足元に短刀のようなものが見えます。
気になる…。
参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』 績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社
生薬イメージ画像:
『中医臨床家のための中薬学』 医歯薬出版株式会社
※画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。
為沢