こんにちは、大原です。
前回(鍼灸甲乙経を読む その31)
の続きです。
今回は、第10の営気篇になります。
この篇は『霊枢』の営気篇(第16)とほぼ同じ内容になりますが、
『霊枢』と比較すると、ある一文字だけが違っていたりします。
やはり、後の時代によって、
確認や修正が加えられていることが窺えます。
(下の<読み>のところで、『霊枢』と異なる文字を示しております。)
<原文>
營氣之道、内穀爲寳。
穀入于胃、氣傳之肺、流溢于中、布散于外。
精專者、行于經隧、常營無已、終而復始、是謂天地之紀。
故氣從太陰出、循臂内上廉、注手陽明、上行至面、注足陽明、下行至跗上、注大指間、與太陰合、上行抵髀、從脾注心中、循手少陰、出腋下臂、注小指之端、合手太陽、上行乘腋出䪼。
内、注目内眥、上巓下項、合足太陽、循脊下尻、下行注小指之端、循足心、注足少陰、上行注腎、從腎注心、外散于胸中、循心主脉、出腋下臂、入兩筋之間、入掌中、出手中指之端、還注小指次指之端、合手少陽、上行注膻中、散于三焦、從三焦注膽出脇、注足少陽、下行至跗上、復從跗注大指間、合足厥陰、上行至肝、從肝上注鬲、上循喉嚨、入頏顙之竅、究于畜門。
其支別者、上額循巓下項中、循脊入骶。是督脉也、絡陰器、上過毛中、入臍中、上循腹裏、入缺盆、下注肺中、復出太陰。
此營氣之行、逆順之常也。
<読み>
営氣の道は、穀を内るるを実と為す。
穀は胃に入り、氣(『霊枢』では「乃(すなわち)」)はこれを肺に伝え、
中に流溢し、外に布散す。
精の専なる者は、經隧を行き、
常に営して已むこと無し、終りてまた始まる、これを天地の紀という。
ゆえに氣は太陰より出でて、臂内の上廉を循り(『霊枢』には記載なし)、
手の陽明に注ぎ、上行して面に至り(『霊枢』では記載なし)、
足の陽明に注ぎ、下行して跗上に至る。
大指の間に注ぎ、太陰と合す。
上行して脾に抵り、脾より心中に注ぐ。
手の少陰を循り、腋に出て臂を下り、小指の端に注ぎ、手の太陽と合す。
上行して腋に乗じ䪼に出て、内は目の内眥に注ぐ。
巓に上り項を下り、足の太陽に合す。
脊に循って尻に下り、下行して小指の端に注ぐ。
足心に循って、足の少陰に注ぎ、上行して腎に注ぐ。
腎より心に注ぎ、外は胸中に散ず。
心主の脉に循って、腋に出て臂を下り、両筋の間に入りて、掌中に入り、手の中指の端に出ず。
還りて小指次指の端に注ぎ、手の少陽と合し、上行して膻中に注ぎ、三焦に散ず。
三焦より胆に注ぎ、脇に出て、足の少陽に注ぐ。
下行して跗上に至り、また跗より大指間に注ぎ、足の厥陰と合す。
上行して肝に至り、肝より上りて鬲(『霊枢』では「肺」)に注ぐ。
上って喉嚨に循って、頏顙の竅に入り、畜門に究まる。
その支別なる者は、額を上り巓に循って項中に下り、脊に循って骶に入る。
これ督脉なり、陰器を絡い、上って毛中を過ぎ、臍中に入る。
上りて腹裏に循って、缺盆に入り、下って肺中に注ぎ、復び太陰に出ず。
これ営気の行するところなり。逆順の常なり。
<意味>
営気が全身を運行するためには、
飲食から得た水穀の精微をよく受納していることが最も大切なことである。
水穀は胃に入り、消化吸収の過程を経て化生して精微となり、
しかる後、肺に転注され、内臓に流溢し、外には布散するのである。
精中の専なるものは、いつも経脈中を流行して休止するということはない。
そして終わるとまた始まるのである。
これを天地自然の法則というのである。
それゆえに営気の運行はまず手の太陰肺経より出発して
腕の内側のふくらみを通って手の陽明大腸経に注ぎ、
上へ行き顔に至って陽明胃経に注ぎ、下行して足背に至り足の大指の間に流注して
太陰脾経と合し、上行して脾に至り、脾から心中に注ぐのである。
ついで手の少陰心経に沿うて腋窩部に出て、腕の内側後縁に沿って下り、
流注して小指に至り、手の太陽小腸経に合する。・・・(以下簡略化する)
・・・この営気の運行ルートを簡略化して示すと、
以下のようになります。
手太陰肺経→手陽明大腸経→足陽明胃経→足太陰脾経→脾→心中→
手少陰心経→手太陽小腸経→足太陽膀胱経→足少陰腎経→腎→心→胸中→
心主の脉→手少陽三焦経→三焦→胆→足少陽胆経→足厥陰肝経→肝
→鬲(上焦と中焦の間にある膜で、横隔膜あたりの意と思われる。)
→喉嚨(のど)
→頏顙(口の中の二孔で口内津涎の分泌を主るもの)
→畜門(営気が蓄えられ一時的にとどめられている場所の出入り口の意。
のどの部分であり頏顙の竅(穴)の門でもある。)
また、このあとに営気の
支別ルートとして督脈の走行についての記述が続き、
営気の循行経路は、
このように上から下へ下ったり、下から上に上ったりして、
陰陽各経の交相逆順していく正常な情況(ありさま)である。
としめくくられています。
続きます。
参考文献
『鍼灸医学大系 黄帝内経素問』
『鍼灸医学大系 黄帝内経霊枢』雄渾社
『完訳 鍼灸甲乙経(上巻)』三和書籍
興味のおありの方は、ぜひ参考文献もお読みください。