こんにちは、大原です。
今回は、「亡心之針」です。
二十八.亡心之針
亡心トハ一切ノ煩ヒ大食傷頓死等ニ心氣ヲト
リ亡フヲ云フ右ニ書スル如ク先神闕ノ動脉ヲ
診脉無バ不レ針脉少ニテモ有バ鳩尾同兩傍ニ
深針ス是針ニテ不利神闕ニ深立ベシ是ニテ
不レ生定業可レ知是當流之大事也亡心ノ
証ハ皆以テ邪氣心包絡ニ紛入テ心氣ヲ奪
ガ故ニ如レ斯因テ鳩尾并ニ兩傍ニ深針シテ心
邪ヲ退ケヌル時ハ本心ニ歸スル也諸病ノ心
持實積テ邪ト變シ正ヲ失フ其邪ヲ退クル
節ハ元ノ正ニテ病無ト可レ悟也
現代の読み方に直します。
亡心とは、一切の煩い、大食傷、頓死等に心氣をとり亡なうをいう。
右に書する如く、まず神闕の動脉を診(う)かがい、脉無くば針せず。
脉少にても有らば、鳩尾同じく兩傍らに深く針す。
是の針にて利せずんば、神闕に深く立るべし。
是れにて生きずは定業(じょうごう)と知べし。是れ当流の大事なり。
亡心の証は皆以て邪氣心包絡に紛(みだ)れ入りて
心氣を奪(うば)うが故に、斯(かく)の如し。
因(より)て、鳩尾、并(なら)びに兩傍らに
深く針して心邪を退けぬる時は、本心に帰するなり。
諸病の心持ち、実積(つ)んで邪と変し正を失う。
その邪を退くる節(とき)は元(はじめ)の正にて病無と悟(さとる)べきなり。
今回の内容は、神闕(臍)の脈を診るなど、
前回の記事の続きになるようです。
意味としては以下のようになると思います。
「亡心」とは、様々な患い、大食傷、瀕死等によって
心気を失っていることを言う。
右(前回の記事→「二十七.中風針之大事」)に書いたように、
まず神闕(臍)の脈を診て、脈が無ければ鍼はしない。
脈が少しでもあれば、鳩尾とその左右に鍼を深くする。
この鍼で効果が無ければ神闕(臍)に深く鍼を立てるべきである。
これで効果が無ければ、寿命であると知るべきである。
邪気が心包絡に入り混んで心気を奪ってしまうのが亡心の証である。
そのため鳩尾やその左右に深く鍼をして、
心気を阻害している邪気を退かせることができれば
気を取り戻す。
諸々の病は、「実」(「実=あらゆる負担」と言い換えて良いと思います)が
積み重なって邪となり、正気を阻害する。
この、正気を阻害している邪を退かせれば、
正気を取り戻して元の状態になって病が無くなるものと知るべきである。
神闕(臍)に鍼をすると、
人事不省に陥った場合などにも
効果がある場合があると書かれています。
現代では、神闕穴は禁鍼穴とされていますが、
これはおそらく治療効果が大きいために
使い方を誤ると正気を損ない、
逆に寿命を縮めてしまうからなのでしょう。
続きます。
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鍼道秘訣集を読む その1 → 鍼道秘訣集序
鍼道秘訣集を読む その2 → 一.當流他流之異
鍼道秘訣集を読む その3 → 二.當流臓腑之辯
鍼道秘訣集を読む その4
鍼道秘訣集を読む その5
鍼道秘訣集を読む その6 → 三.心持之大事
鍼道秘訣集を読む その7 → 四.三清浄
鍼道秘訣集を読む その8
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鍼道秘訣集を読む その19 → 十.止針
鍼道秘訣集を読む その20 → 十一.胃快ノ針
鍼道秘訣集を読む その21 → 十二.散針
鍼道秘訣集を読む その22 十三.鍼不抜抜事
鍼道秘訣集を読む その23 十四.鍼痛
鍼道秘訣集を読む その24 十五.知必死病者習
鍼道秘訣集を読む その25 十六.吐針
鍼道秘訣集を読む その26 十七.瀉針
鍼道秘訣集を読む その27 十八.車輪之法
鍼道秘訣集を読む その28 十九.実之虚 & 二十.虚之実
鍼道秘訣集を読む その29 二十一.実実 & 二十二.虚虚
鍼道秘訣集を読む その30 二十三.知寒気事
鍼道秘訣集を読む その31 二十四.知腫気来事
鍼道秘訣集を読む その32 二十五.瘧観之大事
鍼道秘訣集を読む その33 二十六.膈之針
鍼道秘訣集を読む その34 二十七.中風針之大事
参考文献:
『鍼道秘訣集』(京都大学附属図書館所蔵)より
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00003559
(掲載画像は該当部分を抜粋)
『弁釈鍼道秘訣集』 緑書房
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