沢瀉
沢瀉

張仲景の古医書『傷寒論』の解説です。

今回の傷寒論は弁少陰病脈証并治 二百八十一章・二百八十二章。
二百八十一章では少陰病の提綱証について。
二百八十二章では少陰病虚寒証について詳しく述べております。


二百八十一章

少陰病之爲病、脉微細、但欲寐也。

和訓:
少陰の病たる、脉微細、但だ寐ねんと欲するなり。


少陰病之爲病、脉微細、但欲寐也
少陰は心と腎を包括する。
心と腎は水火の臟で陰陽に分類できる。
心は火に属して血脈を主り、腎は水に属して元気を主る。
水火の均衡がとれていれば、
陰陽は交流して生化上騰し、熱となる。
つまり少陰は熱をもって木気とする。
陰陽がともに虚して偏衰偏虚、高盛泛濫し、
均衡がとれなくなった状態を少陰病と言うのである。

脉微細、但欲寐也
腎虚で陽気に力がなくなれば脉微となり、
心虚で血脈を充分に満ちさせることができなくなれば脉細となる。
このことから原文の「脉微細」は、
心腎の陰陽が共に虚しているが、
そのうち陽虚が主である病理を反映したものなのである。

陽気は腎より発生する。
腎虚で陽光がふるわず、真陽が内に詰まって外に出ないために
いつまでも寝ていたいのである。
この”欲寝”は熟睡できず、意識がもうろうとして、
昏睡が醒めない状態をいう。
これは陰陽がともに虚して、しかも陽虚が甚だしくなったものであるから、
病は少陰に及んでいるのであるが、
実際は陰陽気血の根本にも影響は及んでいる。
治療はこの脉証に従って行っていけばよい。

提要:
少陰病の提綱証について。

『現代語訳 宋本傷寒論』訳を使用:
およそ少陰の病では、往々にして、
脉がぼんやりして眠ろうとするが、静かに熟睡できない状態。


二百八十二章

少陰病、欲吐不吐、心煩但欲寐、
五六日自利而渇者、屬少陰也、
虚故引水自救、若小便色白者、少陰病形悉具、
小便白者、以下焦虚有寒、不能制水、故令色白也。

和訓:
少陰病、吐せんと欲して吐せず、心煩し、但だ寐ねんと欲し、
五六日に自利して渇するものは、少陰に属するなり。
虚するが故に水を引き自ら救う。
若し小便色白きものは、少陰病の形悉く具わる。
小便白きものは、下焦虚して寒あり、
水を制すること能わずを以て、故に色をして白からしむるなり。


少陰病、欲吐不吐、心煩但欲寐
少陰は水火の臟を主る。病で火水の均衡がとれていないのは、
陰陽の交流がなされていないからである。
そして陽虚で偏っていれば、その初期症状として
水寒の上逆により胃気動犯を生じさせ
吐きたいが吐けない症状が出現する。
また心煩して熟睡できず、ただ昏々として横になっているのは
陽虚内困して外より入るものの
内から出ない陰盛陽衰になっているからである。
則ち、この煩は実熱によるものではなく、
欲吐不吐も心胸においてのみ乱れているからである。

五六日自利而渇者、屬少陰也、
虚故引水自救、若小便色白者、少陰病形悉具、
小便白者、以下焦虚有寒、不能制水、故令色白也

その後、5〜6日経過すれば陰経の主る時期となり、
水寒はますます盛んになるが、反対に脾陽は虚すので下痢をする。
さらに少陰の陽が虚したことにより、
津を盛んにならないために口渇が生じ、
水分を補給しようとするのである。
しかしこの口渇は熱証ではないので、
小便は透明なのである。

提要:
少陰病虚寒証について。

『現代語訳 宋本傷寒論』訳を使用:
少陰病に罹ると、患者は吐きたがるが吐けず、
いらいらして落ち着かず、ひたすら眠たがる。
第五六日になって自然に下痢して口渇も現れるなら、
少陰の病であることがより一層明確になる。
陽虚のゆえに津液を気化することができない結果、
患者は口渇をいやすために水を飲みたがる。
もし尿の色が稀いなら、少陰病の陽虚の特徴はさらに充分なものとなる。
小便の色が稀いのは、下焦が陽虚で寒があり、
水液を気化することができず、
その結果、小便の色は稀くなるのである。


参考文献:
『現代語訳 宋本傷寒論』
『中国傷寒論解説』
『傷寒論を読もう』
『中医基本用語辞典』   東洋学術出版社
『傷寒論演習』
『傷寒論鍼灸配穴選注』 緑書房
『増補 傷寒論真髄』  績文堂
『中医臨床家のための中薬学』
『中医臨床家のための方剤学』 医歯薬出版株式会社

生薬イメージ画像:為沢 画

※画像や文献に関して、ご興味がおありの方は
是非参考文献を読んでみて下さい。

為沢

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